かにわ (かには) 

 
 「かには」の語源は、アイヌ語のカリンパに由来するという説がある。
 「かには」は、そののち「かんば」、さらに「かば」と発音が変化してきた。
    kanifa→kanfa→kampa→kamba→kaba
 今日では「かば」が一般的だが、「かんば」の音も遺っている。
 なお、とくに古語の「かには」を言う場合は、「かにわ kaniwa」と発音する。
 日本の古代に「かには」という言葉があって、『万葉集』『倭名類聚抄』などに見える。
 古語の「かには」は、木の皮であって、舟に巻いたり、器に張ったり、曲げ物を縫い合わせたりするために用いられるものを言う。実際にその皮がそのように用いられた植物とは、サクラの仲間
(バラ科サクラ属の植物)や、カバノキの仲間(カバノキ科カバノキ属の植物)であったらしい。「かには」の語は、やがて樹皮だけではなく、その植物本体も指すようになった。したがって「かには」は、サクラの仲間やカバノキの仲間、あるいはその内の樹皮を用いるという目的に適した一部の植物を、指した。

 「かには」は、漢字では「桜皮」と書いた
(『万葉集』)が、別に「樺」の字も当てられた。
 漢語の樺(カ,huà)は、カバノキ属 Betula(樺木屬)の植物の総称。なかでも一般に樺樹・樺木と呼ばれてきたものはシラカバ B. platyphylla(白樺)だが、同属の植物で日中双方に産するものには ほかにダケカンバ B. ermanii(嶽樺)がある。中国では、カバノキ属の植物の多くを、その樹皮からタンニンを取って、動物の皮をなめすのに使う。一方、サクラの仲間では、当時日中双方に共通する樹種は無かった。
 「かには」に漢語を当てはめようとしたときに「樺」の語が選ばれたのは、「かには」の一部が「樺」だった、或いは少なくとも「樺」に似ていたからであろう。

 樹皮という部分やその用途に発した「かには」という言葉が、樹木の種類を表す「樺」という外来語と結びついた(「かんば」「かば」がカバノキ属の植物を表すことになった)ことが、のちにいくらかの混乱をもたらした。すなわち、本来の「かには」の意味が失われ、「かには」を「桜皮」と書いた理由・意味が分らなくなってしまった。その結果、古語の「かには」について、ハハカ(ウワミズザクラ)説・シラカバ説などが唱えられるに至った。

 しかし、松田修は、「・・・今も曲物師はつかう櫻皮をカバと呼んでいる・・・。曲物師のつかう櫻皮は主としてヤマザクラ系の櫻の皮であるが、この中にヤマカバ・サクラカンバなどの方言で呼ばれているものにチョウジザクラがある。これは本州中部以西の山地に生え、まき物用として昔から利用されているもので、これにはカバザクラ、カンバザクラの名がある。
(上原敬二「樹木大圖説」による) この名は古名のカニハザクラから轉訛したものと考えられるもので、「和名抄」に「又云加仁波今櫻皮有之」という説明もかく考えるとよく理解される。 私は以上の點から、萬葉にカニハ(櫻皮)とあるものは、用字通り櫻の皮と解し、主としてチョウジザクラなどの櫻の皮が利用され、それをカニハと呼んだものと考える。」という(『増訂萬葉植物新考』1970)。今日では、この説がおおむね受け入れられているようだ。
 
 『万葉集』に、

   ・・・ 桜皮
(かには)(ま)き 作れる舟に 真かじ貫(ぬ)き 吾がこぎ来れば ・・・
      
(6/942,山部赤人)
 
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、「樺 玉篇云、樺。〔戸花、胡化二反。和名加波、又云加仁波。今桜皮有〕。木皮名、可以為炬者也。」と。
 『古今和歌集』10物名に「かにはざくら」として、

   かづけども 浪のなかには さぐられで 風吹くごとに うきしづむたま
 
 宮崎安貞『農業全書』(1697)「桜」の条に、「又若木の時、上皮を剥ぎては、かばと云ひて檜物屋に多く用ひ、其外細工に用ゆる物なり」と。

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