| 辨 | トチバニンジン属 Panax(人參 rénshēn 屬)については、トチバニンジン属を見よ。 | 
          
            | 訓 | 參(参)の字は、 參(サン,cān)と読めば「まいる、かかわる、あずかる」意、
 參(シン,shēn)と読めば ①黄道二十八宿の一「參星(シンセイ,shēnxīng)」、②オタネニンジンの根。
 
 オタネニンジンは、最も古くは薓(シン,shēn)と書き、根が時間をかけてゆっくりと生長する様子から命名したもの。〔薓の字形は、下の欄外に拡大して示してある〕。のち、蓡・參と書いた。
 參をとくに「人」參というのは、肥大した根がしばしば二つに分れ、人体の形に似ることから。
 
            
              
                
                  | 李時珍『本草綱目』(ca.1596)人参の釈名に、「人蓡(ジンシン,rénshēn)、年深くして浸漸に(ゆっくりと、次第に)長成する者なり。根は人の形の如く、神有り。故に之を人薓・神草と謂う。薓字は濅に従う。亦た浸漸の義なり。濅は即ち浸字なり。後世、字文 繁きに因り、遂に參星の字を以て之に代う。簡便に從うのみ。然して誤りを承けて日 久し。亦た變う能わざるなり」とある。 |  | 
          
            | 許慎『説文解字』に、「薓(シン,shēn) 人薓(ジンシン,rénshēn)、藥艸。出上黨。从艸、濅聲。山林切」と。 李時珍『本草綱目』人参の釈名に、「人薓 音は參。或は省きて濅に作る。 黃參呉譜。血參別録。人銜本経。 鬼蓋本経。神草別録。 土精別録。地精廣雅。海腴 皺面還丹廣雅。」と。
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            | 參(シン,shēn)の字は、転じては(オタネニンジンのように)食用・薬用にする太い根を持つ植物(その根)を言う。 そのうち、特に人參(ジンシン,rénshēn,にんじん)・玄參(ゲンシン,xuánshēn,げんじん)・丹參(タンシン,dānshēn,たんじん)・苦參(クシン,kŭshēn,くじん)・沙參(サシン,shāshēn,しゃじん)を、五參と呼ぶ。
 
 李時珍『本草綱目』(ca.1596)丹參の釈名に、「五參は五色、五臟に配す。故に人參は脾に入り、黃參と曰う。沙參は肺に入り、白參と曰う。玄參は腎に入り、黑參と曰う。牡蒙は肝に入り、紫參(シシン,zĭshēn)と曰う。丹參は心に入り、赤參と曰う。其の苦參は、則ち右腎命門の藥なり。古人、紫參を捨てて苦參を稱するは、未だ此の義に達せざるのみ」と。
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            | 上に言う紫参(シシン,zĭshēn)は、一名牡蒙(ツクバネソウ(王孫)にも同じ別名がある)・童腸・馬行・衆戎・五烏花というが、正体は不明。『本草和名』紫参には「和名知々乃波久佐」と、小野蘭山『本草綱目啓蒙』紫參には「チゝノハグサ ハルトラノヲ イロハサウ尾州」と。 今日の中国では、紫参は拳参と同物異名、則ちイブキトラノオ。
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            | 日本では、古来人参(にんじん)といえば オタネニンジンを指した。 和名のオタネの由来については、下の説欄を見よ。
 
            
              
                
                  | しかし日本にはオタネニンジンを産しないので、形や色が似たものを人参(の偽物)とした。これを引いて、近世まで数多く何々人参と名づけられた植物があった(宮崎安貞『農業全書』1697)。 それらのうち今日までその名を伝えるものに、ツリガネニンジン・トチバニンジンがある。
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            | 『本草和名』人参に、「和名加乃尓介久佐、一名尓己太、一名久末乃以」と。 『延喜式』人参に、カノニケクサ、ニコタクサと。
 『大和本草』に「延喜式日本諸州ノ土産ニ人參アリ、是亦砂參ヲ以人參トセシナルヘシ」と。
 『倭名類聚抄』人参に、「和名加乃仁介久佐、一名久末乃伊」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』8(1806)に、「カノニゲグサ和名鈔。クマノイ同上」と。
 岩崎灌園『本草圖譜』(1828)に、「人參(ニンジン) 御種(ヲタネ)にんじん」と。
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            | 16世紀に西洋から蔬菜のニンジン carrot が入ると、人参は carrot を指すことになり、オタネニンジンは 区別して朝鮮人参・高麗人参などと呼ばれた。 | 
          
            | 学名の種小名及び英名は、人參の中国音の転訛。 | 
          
            | オタネニンジンの学名について。 初めて学名をつけたのは Siebold、1830年に Panax quinquefolia。そののち、Panax schin-seng、Panax ginseng、Panax quinquefolia var. ginseng、Aralia quinquefolia var.ginseng などの名が与えられたが、今日 国際規約上合法的なものとして用いられているのは P. ginseng である、という。
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            | 説 | 朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江・ウスリーに分布。ただし、原産地でも自生品は稀。 野生品を野山參・山參(サンシン,shānshēn)、栽培品を園參(エンシン,yuánshēn)と呼ぶ。山參の主産地は吉林(撫松・通化・靖宇・蛟河)及び遼寧(桓仁・寛甸・新濱)。園參の主産地は吉林(撫松・輯安)、次いで遼寧(寛甸・桓仁・鳳城・本溪・淸原・新濱)・吉林(通化・靖宇・臨江)及び延邊朝鮮族自治州(延吉安圖・汪淸)。
 上記のほか、日本・河北・山西・甘肅・寧夏・湖北などで栽培する。
 
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            | 根が大きくなるのに時間がかかるので、普通 種を播いてから4-7年で収穫する。 | 
          
            | 日本には、739年に勃海使が 薬品としての人参を献上した記録がある。 江戸幕府は、享保13年(1728) 日光で栽培を始め、増殖した種子を御種人参(おんたねにんじん)の名で諸国の大名に分け与えた。
 今日では、長野県(丸子周辺)・福島県(会津)・島根県(出雲)などが主産地。
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            | 誌 | 根にサポニンなどを含み、古来東アジアにおいて著名な生薬。 | 
          
            | 薬品としての利用: 中国では、根を人參(ジンシン,rénshēn,にんじん)と呼び、根茎を人參蘆と呼び、根茎の上の不定根を人參條と呼び、ひげ根を人參鬚と呼び、葉を人參葉・參葉と呼び、花を人參花と呼び、果実を人參子と呼び、それぞれ薬用にする。『中草薬現代研究』Ⅱp.362・『中薬志Ⅰ』pp.9-14・『(修訂)中薬志』I/1-10・『全國中草藥匯編』上/20-22
 
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            | 中国では: 新鮮で加工していない園參を園參水子(エンシンスイシ,yuánshēnshuĭzĭ,鮮園參とも)と呼び、加工品には、加工の仕方により紅參(表面が赤いことから)・生晒參(セイサイシン,shēngshàishēn)・糖參・搯皮參などがある。
 山參の新鮮未加工のものは山參水子(サンシンスイシ,shānshēnshuĭzĭ,鮮山參とも)と呼び、加工品には生晒山參・糖參・搯皮參などがある。
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            | 人參の葉を晒して乾したものを參葉と呼び、薬用にする。ただし、今日市場に出まわっているものは、陝西省産のヒマラヤニンジン P. bipinnatifidus(大葉三七・七葉子)の葉であり、オタネニンジンのものではない(『中薬志Ⅰ』)。 | 
          
            | 日本では: 世俗に朝鮮人参・高麗人参と称して有名な漢方薬。
 生薬コウジン(紅参)は、オタネニンジンの根を蒸したものである。生薬ニンジン(人参)は、オタネニンジンの細根を除いた根又はこれを軽く湯通ししたものである(第十八改正日本薬局方)。
 
 
            
              
                
                  | 「人参」は胃腸機能の低下した虚弱体質(漢方医学でいう虚証の体質)者の食欲不振、下痢、疲労感、神経衰弱などに対し、健胃薬として薬理学的にも証明され、単味(粉末)、各種の漢方剤に配合して用いる。(『本草図譜総合解説』木島正夫) |  | 
          
            | 昔から偽物が通行。李時珍『本草綱目』(ca.1596)人参の集解に、「偽る者は、皆な沙參(サシン,shāshēn,しゃじん)・薺苨(セイデイ,jìnĭ,せいねい)・桔梗(ケツコウ,jiégěng,ききょう)を以て根を采り、造作して之を乱す」とある。なお、薺苨はアツバソバナ Adenophora trachelioides(一説にソバナまたはトウシャジン)。 
 今日の中国では、地方により次のようなものが人參として誤用されている。
 アカササゲ Vigna vexillata(野豇豆)
 Physochlaina infundibularis(華山參・漏斗脬囊草)
 Physochlaina macrophylla(大葉脬囊草)
 ハゼラン Talinum paniculatum(土人參・錐花土人參)
 ヤマゴボウ Phytolacca acinosa(商陸)
 ヨウシュヤマゴボウ Phytolacca americana(美洲商陸)
 アキノノゲシ Lactuca indica(山萵苣・翅果菊)
 
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