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マンダリン・オレンジ Citrus reticulata(柑橘 gānjú・甜橘 tiánjú)の品種。
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Citrus reticulata は、インドアッサム原産、ミカン属の自生種の一。果皮が薄く手で剥け、果実は甘く生食できる。東方には中国を経由して日本にまで至り、西方には地中海地方に入り、大西洋を越えてフロリダでも栽培されている。
中国では歴史的に橘(キツ,jú)と呼ばれてきた。英名は、清朝の高級官僚 mandarin の礼服の色(黄色)から。
次のような品種がある。
ポンカン 'Ponkan'(C.reticulata var.poonensis(C.poonensis;
柑橘 gānjú・椪柑 pènggān・甜橘 tiánjú;E.Ponkan orange)
変種名 poonensis(及び漢名の椪)はインドの地名 Poona に因み、和名は椪柑の音。
臺灣・福建・広東産、日本には1896台湾から導入。『中国本草図録』Ⅰ/0152
'Chachiensis'(C.chachiensis, C.nobilis var.chachiensis;茶枝柑・大紅柑) 廣東産
クネンボ 'Kunenbo'(C.nobilis var.kunep;E.King mandarin)
インドシナ原産 日本には江戸時代までに琉球から入る
キシュウミカン(コミカン) 'Kinokuni'(C.kinokuni;南豐蜜橘 nánfēng mìjú)
中国では、1300年以前から江西を中心に浙江・福建などで栽培。
日本には、浙江から肥後八代に齎されたコミカンが、15-16c.に紀州有田に入り、
紀州で産業化され江戸でも売られた。株はさらに駿河に入り、静岡蜜柑の祖。
江戸時代には蜜柑といえば本種であった。
大分津久見市の樹齢800年超の古木は天然記念物。
ウンシュウミカン 'Unshiu'(C.unshiu;溫州蜜柑 wēnzhōu mìgān;E.Satsuma mandarin)
キュウミカンとクネンボの雑種、400-500年前に九州で発生。
果実はキシュウミカンより大きく、種無し。明治中頃から広く流通し、
蜜柑といえば本種を指すようになり、キシュウミカンにとってかわった。
今日の中国では、日本から導入したものを長江以南・北回帰線以北で栽培。
オオベニミカン var. deliciosa(C.tangerina, C.deliciosa;紅橘・福橘)
17c.頃歐洲に入り、地中海地方で栽培、日本には江戸時代に入る。『中薬志Ⅱ』pp.222-226
モロッコのタンジール港に因みタンジェリン・オレンジと呼ばれる。
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ミカン属 Citrus(柑橘 gānjú 屬)については、ミカン属を見よ。 |
訓 |
和名の温州は、中国浙江省温州(オンシュウ,wēnzhōu)の謂だが、ウンシュウミカンは温州には関係が無い。下欄の説を見よ。 |
説 |
四・五百年前に、中国の浙江省黄岩からもたらされたミカン類の種子から、日本の鹿児島県長島(天草の南にある)で発生した食用種。李夫人・唐蜜柑・中島蜜柑など各地で各様に呼ばれていたが、明治時代以降全国でウンシュウミカンと呼ぶようになった。
日本を代表するミカンで、今日では100以上の品種がある。そのうち、変種ワセウンショウ var. praecox は、大分県で1895頃枝変わりとして発見された。
主に静岡・和歌山・愛媛・佐賀・熊本などで、国外では朝鮮(済州島)・中国・アメリカ(カリフォルニア)・スペインなどで栽培する。 |
誌 |
果実を生食し、また缶詰・ジュースなどに加工する。 |
中国では、ポンカン(椪柑・甜橘)とその変種の、成熟した果皮を乾燥したものを 陳皮(チンピ,chenpi)と呼び、薬用(内服、浴料あるいは屠蘇散)にし、香味料として食材にし、日本では七味唐辛子(唐辛子・胡麻・山椒・芥子の実・麻の実・菜種・陳皮をあわせた香辛料)に用いる。『中薬志Ⅱ』pp.206-213、日本薬局方。
陳皮の名は、漢方では陳久品を尊ぶことから附けられたものという。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻三「柑(かう)るひ」に、「蜜柑(みつかん) 大小二種有。紀伊國ヲ上とす」、「かうじ みつかんの如クニてちいさし。かたちも異ありと見ゆる。鶴岡八幡宮御神木すなハち拝殿東ノ方ニ侍るヲ拝しぬ」、「雲州橘(うじゆきつ) くわしく不知」と。 |