さくらそう (桜草) 

学名  Primula sieboldii (P.sieboldii var.patens, P.patens)
日本名  サクラソウ
科名(日本名)  サクラソウ科
  日本語別名  
漢名  櫻草(オウソウ,yīngcăo)
科名(漢名)  報春花(ホウシュンカ,bàochūnhuā)科
  漢語別名  
英名  Siebild's primrose, Peter's key
2007/03/21 田島が原
2006/04/13 田島が原
自然のままでも、花の色や形に変異が見られる。
2008/04/05 田島が原
  六瓣品   紅白のしぼりのもの



2018/05/16 長野県茅野市

 サクラソウ科 Primulaceae(報春花 bàochūnhuā 科)には、約53-80属 約2300-2600種がある。

  ツノヤブコウジ科 Aegiceras(蠟燭果屬)
1-2種 
    ツノヤブコウジ
(ツノミヒルギ) A. corniculatum(蠟燭果・桐花樹)
         
福建・両広・東南アジア・インド・ニューギニア・濠洲東北部に産 
    A. floridum
フィリピン・セレベス・ニューギニア産 

  トチナイソウ属 Androsace(點地梅屬)
 約150-165種 
    A. bulleyana(景天點地梅)
雲南産 『雲南の植物』158
    トチナイソウ A. chamaejasme subsp. capitata(subsp.lehmanniana, A.bungeana,
         A.capitata;旱生點地梅)
         
北海道・早池峰山・朝鮮北部・新疆天山・モンゴル・極東ロシア・アラスカ・カナダ産
    カラカササクラ a. cortusifolia
    サカコザクラ A. filiformis(東北點地梅)
 東歐~極東ロシア・USA北西部産、青森などに帰化
    ヒナコザクラ A. gmelinii(小點地梅・高山點地梅)
内蒙古・シベリア・極東ロシア産 
    サイトウソウ A. incana(A.villosa var.incna;白花點地梅)
華北・内外蒙古・シベリア産 
    ホソバコザクラ A. longifolia(長葉點地梅)
山西・寧夏・内外蒙古・黒龍江産 
    イヌコザクラ A. maxima(A.turczaninovii;大苞點地梅)
北アフリカ・歐洲~シベリア・蒙古産  
    A. mucronifolia
ヒマラヤ・パキスタンなどに産。『週刊朝日百科 植物の世界』6-14
    A. rigida(硬枝點地梅) 四川・雲南産 『雲南の植物』158
    ツルハナガタ A. sarmentosa(匐枝點地梅)
チベット・ヒマラヤ・カシミール産 
    ハリコザクラ
(キタコザクラ) A. septentrionalis(北點地梅・雪山點地梅)
         
朝鮮・蒙古から北半球の温帯に産 
    A. spinulifera(刺葉點地梅) 四川・雲南産 『雲南の植物』159
    リュウキュウコザクラ A. umbellata(點地梅)
 『週刊朝日百科 植物の世界』6-13
         本州中国・四国・九州・琉球・朝鮮・華北・東北・秦嶺以南各地・臺灣・インドシナ・インド産

  ヤブコウジ属 Ardisia(紫金牛屬)
約500種 

  Bryocarpum(長果報春屬)
 1種
    B. himalaicum(長果報春)
ヒマラヤ・チベット産。『週刊朝日百科 植物の世界』6-2 

  シクラメン属 Cyclamen(仙客來屬) 

  キダチマンリョウ属 Discocalyx(盤金牛屬)
フィリピン・ミクロネシアに約50-55種 

  ツルモッコク属 Embelia(酸藤子屬)
旧世界の熱帯・亜熱帯に約130-140種 
    E. laeta
      var. laeta(酸藤子)
臺灣・福建・江西・両広・雲南産 
      ツルモッコク var. papilligera(腺毛酸藤子)
臺灣産 

  オカトラノオ属
(コナスビ属) Lysimachia(珍珠菜屬・排草屬)
      incl. Anagallis, Naumbergia, Trientalis 

  イズセンリョウ属 Maesa(杜莖山屬)
 

  ツルマンリョウ属 Myrsine(鐵仔屬)
世界の熱帯・亜熱帯に約300種 
      incl. Rapanea 
    M. africana(鐵仔)
臺灣・両広・両湖・陝甘・西南・チベット・ヒマラヤ・インド・アラビア・東&南アフリカ産 
    ホソバタイミンタチバナ M. linearis(Rapanea linearis;打鐵樹)
両広・貴州・越南産 
    シマタイミンタチバナ M. maximowiczii(Manglilla maximowiczii,
          Rapanea maximowiczii)
小笠原産 
    マルバタイミンタチバナ M. okabeana(M.maximowiczii var. okabeana,
         M.okabeana, Manglilla okabeana, Rapanea okabeana)
小笠原産 
    タイミンタチバナ M. seguinii(Rapanea neriifolia, R.yunnanensis,
         Athruphyllum neriifloium;密花樹)
         
本州千葉県以西・四国・九州・琉球・臺灣・西南・チベット・インドシナ産
    ツルマンリョウ M. stolonifera(Anamha stolonifera;光葉鐵仔)
         
奈良・山口・屋久島・臺灣・福建・浙江・江西・安徽・両広・西南・ベトナム産 

  Omphalogramma(獨花報春屬)
 華北・西南・ヒマラヤに約12-13種 
    O. vinciflorum(獨花報春)
         
 甘粛・四川・雲南・チベット産 『週刊朝日百科 植物の世界』6-2・『雲南の植物』159 

  Oncostemum
 マダガスカル・コモロに約100種 

  Pomatosace(羽葉點地梅屬)
 1種 
    P. filicula(羽葉點地梅)
西南・青海・チベット産 

  サクラソウ属 Primula(報春花屬) 

  ハイハマボッス属 Samolus(水茴草屬・水繫縷屬) 
世界に約10-15種
    ハイハマボッス
(ヤチハコベ) S. parviflorus(S.valerandii ssp.parviflorus)
         
北海道・本州・南北アメリカ産 
    S. valerandi(水茴草 shuĭhuícăo・水繫縷)
湖南・両広・雲貴産 

  イワカガミダマシ属 Soldanella(雪鈴花屬)
歐洲の高山に16種 
    イワカガミダマシ S. alpina(雪鈴花)

  ホザキザクラ属 Stimpsonia(假婆婆納屬)
 1種
    ホザキザクラ S. chamaedryoides(假婆婆納 jiăpópónà)
         
屋久島・琉球・臺灣・華東・湖南・両広に産 『週刊朝日百科 植物の世界』6-14 
   
 サクラソウ属 Primula(報春花 bàochūnhuā 屬)には、世界に約480-520種がある。

  P. amethystina
    subsp. amethystina(紫晶報春)
 雲南産 
    subsp. brevifolia(短葉紫晶報春)
四川・雲南産 『雲南の植物』160
    subsp. argutidens(P. argutidens;尖葉紫晶報春) 
四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』230
  アツバサクラソウ P. auricula
 ヨーロッパ産。『週刊朝日百科 植物の世界』6-10
  ナガバノミミサクラソウ P. auriculata
  P. bathangensis(巴塘報春) 『雲南の植物Ⅱ』225・『中国本草図録』Ⅷ/3724
  ムラサキクリンソウ P. beesiana(霞紅燈臺報春)
四川・雲南・ミャンマー産 
  P. blinii(P.incisa;糙毛報春・羽葉報春)
 四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』232
  カワシマコザクラP. borealis(P.kawasimae)
  P. bulleyana(橘紅燈臺報春) 四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』231・『雲南の植物』161
  P. calliantha(美花報春・雪山厚葉報春)
雲南産 『雲南の植物』162
  マリコザクラ
(ヒマラヤサクラソウ) P. capitata(頭序報春)
          シッキム・ブータン・チベット原産
『原色高山植物大図鑑』239
    subsp. sphaerocephala(無粉頭序報春・俯垂球花報春)
雲南・チベット産 『雲南の植物』163
    subsp. mooreana
  P. cernua(垂花穗状報春・斜倒報春花・米傘花・野洋參) 『雲南の植物』163
  P. chionantha(P.sinopurpurea;紫花雪山報春・玉葶報春・華紫報春花・三月花)
         
四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』231/234・『雲南の植物』163/173・『中国本草図録』Ⅷ/3728
  P. cortusoides(指針報春)
シベリア・中央アジアに分布
  P. crocifolia(蕃紅報春)
四川産 『週刊朝日百科 植物の世界』6-9
  P. cuneifolia
    エゾコザクラ var. cuneifolia(var.rishirensis
) 北海道・極東ロシア・アラスカ産 
    ハクサンコザクラ
(ナンキンコザクラ) var. hakusanensis 飯豊山~白山に産 
    ミチノクコザクラ var. heterodonta
岩木山産 
  タマザキサクラソウ P. denticulata(球花報春;E.Himalayan primrose)
         
ヒマラヤ原産
『原色高山植物大図鑑』239・『週刊朝日百科 植物の世界』6-7
    var. cachemiriana

  セイタカサクラソウ P. elatior 東ヨーロッパに多い
  P. epilosa(二郎山報春・鄂西粗葉報春花・川南報春・豆葉參) 四川産 『中国本草図録』Ⅶ/3286
  P. farinosa
    セイヨウユキワリソウ subsp. farinosa(subsp.xanthophylla;粉報春)
         
『中国本草図録』Ⅳ/1788
イギリス北部・ピレネー・アルプス・西アジア産
      カラフトユキワリソウ var. chrysophylla(P.sachaliensis)
      モウコユキワリソウ(裸報春・無粉報春) var. denudata
         
吉林・黒龍江・内外蒙古・シベリア・極東ロシア産 
  テマリコザクラ P. fistulosa(箭報春) 『中国本草図録』Ⅸ/4289
  キヒメザクラ P. floribunda
  ハルコザクラ P. forbesii(小報春) 『雲南の植物Ⅱ』225・『雲南の植物』164
  P. forrestii(灰巖皺葉報春・松打七・黄葵報春)雲南産 『雲南の植物Ⅰ』232・『雲南の植物』165
  P. frondosa バルカン半島産
  P. gemmifera(苞芽粉報春)
甘粛・四川・チベット産 『雲南の植物』164
    var. amoena(P.zambalensis;厚葉苞芽報春)
『雲南の植物』173 
  ヒダカイワザクラ P. hidakana 北海道産 
    カムイコザクラ f. kamuiana 北海道産 
  P. hirsuta ピレネー・アルプス産
  クリンソウ P. japonica (E.Japanese primrose)
  P. jesoana
    オオサクラソウ var. jesoana(P.hondoensis)
北海道西南部・本州中部以北に産 
    エゾオオサクラソウ var. pubescens
北海道産 
  ジュリアン P. juliae  コーカサス原産
  ミヤマサクラソウ P. juliana P.juliaeとP.vulgarisの交配種か
  カッコソウ P. kisoana
    シコクカッコソウ var. shikokiana
  サントウザクラ P. loseneri
  ヒメコザクラ P. macrocarpa
岩手早池峰山産 
  P. macrophylla(大葉報春) ヒマラヤ産 『週刊朝日百科 植物の世界』6-8
  オトメザクラ(ケショウザクラ) P. malacoides(報春花)
         
雲南・貴州・四川原産。『雲南の植物』166
  P. malvacea(葵葉報春)
四川・雲南産 『雲南の植物』165
  サクラソウモドキ C. matthioli(假報春)   朝鮮・中国乃至ヨーロッパに分布
    シベリアサクラソウモドキ subsp. sibirica(subsp.pekinensis var.sibirica,
         Cortusa matthioli subsp.sibirica)
    セリバサクラソウモドキ subsp. pekinensis(Cortusa coreana, C.pekinensis,
         C.matthioli subsp.pekinensis var.pekinensis;河北假報春)
    サクラソウモドキ subsp. sachalinensis(Cortusa matthioili var.congesta,
         C.coreana var.congesta(var.jozana), C.matthioili subsp.pekinensis
         var.jozana(var.sachalinensis), C.corena var.yezoensis,
         C.matthioli, C.sachalinensis;)
         
北海道・樺太に分布 『週刊朝日百科 植物の世界』6-13 
  トウクリンソウ P. maximowiczii (臙脂花・段報春)
        
河北・山西・陝西・甘肅・靑海・内蒙古に産 『中国本草図録』Ⅸ/4290
  P. minima アルプス東部・バルカン産。『週刊朝日百科 植物の世界』6-10
  ニイタカクリンソウ P. miyabeana(玉山燈臺報春)
臺灣産 
  P. modesta
    ユキワリコザクラ var. fauriei
    レブンコザクラ var. matsumurae
    ユキワリソウ var. modesta(P.farinosa subsp.modesta var.modesta;長白山報春花)
  P. muscarioides(麝草報春・圓錐穗花報春) 『雲南の植物Ⅰ』233
  ヒナザクラ P. nipponica
本州東北地方産 
  ラシュワコザクラ P. nutans(P.sibirica;垂花報春・天山報春) 『中国本草図録』Ⅵ/2774
Ⅸ/4291
  トキワザクラ(シキザキサクラソウ) P. obconica(四季櫻草・四季報春・鄂報春・仙鶴蓮;
         E.Top primrose)
         中国(湖北・四川・西藏南部・雲南・貴州)・ヒマラヤに分布。1882ヨーロッパに入る。
  P. obliqua(斜花雪山報春) チベット・ヒマラヤ産 『週刊朝日百科 植物の世界』6-8
  セイヨウサクラソウ P. officinalis 
  P. ovalifolia(卵葉報春) 両湖・西南産 『中国本草図録』Ⅶ/3287
  P. poissonii(海仙花・海仙報春)
         
四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』232・『雲南の植物』167・『中国本草図録』Ⅷ/3725
  クリンザクラ P. polyantha  (E.Polyanthus primrose) 園芸的に育成した交雑種
  P. polyneura(多脈報春)
 甘粛・四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』233・『雲南の植物』168
  P. pseudodenticulata(滇海水仙花・海仙花)
四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』233・『Ⅱ』225
  P. pulchella(麗花報春)
四川・雲南産 『雲南の植物』169
  P. reinii
    クモイコザクラ var. kitadakensis
秩父・八ヶ岳・明石山脈産 
    ミョウギコザクラ var. myogiensis
妙義山産 
    コイワザクラ var. reinii(var.okamotoi)
本州関東西南部~紀伊半島に産 
    チチブイワザクラ var. rhodotricha(P.tosaensis var.rhodotricha)
武甲山産 
  P. rosea(紅櫻草) 北西ヒラヤ原産
  P. rupiocola(黃粉缺裂報春)
四川・雲南産 『雲南の植物』168
  イワサクラソウ P. saxatilis(巖生報春
 朝鮮・黒龍江・河北・山西に産
  P. secundiflora(偏花報春) 『雲南の植物Ⅰ』234・『雲南の植物』170・『中国本草図録』Ⅷ/3726
  サクラソウ P. sieboldii (P.patens;櫻草)
  P. sikkimensis(錫金報春・黄花報春花) 四川・雲南・チベット・ヒマラヤ産 
         
『雲南の植物Ⅰ』234・『雲南の植物』171・『中国本草図録』Ⅷ/3727
  カンコザクラ
(チュウカザクラ・カンザクラ) P. sinensis(藏報春;E.Chinese primrose)
         
陝甘・湖北・四川・貴州産 古くから報春花として栽培観賞 1821英国に導入 
  P. sinodenticulata(滇北球花報春) 四川・雲貴・ミャンマー産 『雲南の植物』172
  P. sonchifolia(苣葉報春・苦苣葉報春)
四川・雲南・チベット・ミャンマー産 
         
『雲南の植物Ⅰ』236・『雲南の植物』173・『中国本草図録』Ⅶ/3288
    var. albiflora(白花苣葉報春) 
『雲南の植物Ⅰ』237
  ソラチコザクラ P. sorachiana 北海道産 
  P. stuartii 『週刊朝日百科 植物の世界』6-7
  テシオコザクラ P. takedana
北海道産 
  P. tosaensis
    イワザクラ var. tosaensis(巖櫻)
岐阜・紀伊半島・四国・九州産 
    シナノコザクラ var. brachycarpa(P.reinii var.ovatifolia,
         P.reinii var.brachycarpa)
本州関東西部・中部地方南部に産 
  P. tschuktschorum
    エンドウザクラ var. arctica
  P. veris
    キバナノクリンザクラ subsp. veris(黃花九輪草)
『週刊朝日百科 植物の世界』6-11
  アラビアコザクラ P. verticillata
北東アフリカ・アラビア半島産 
  P. vialii(高穗花報春) 四川・雲南産。『中国本草図録』Ⅷ/3729
  イチゲコザクラ P. vulgaris(P. acaulis;E.Primrose)
         
ヨーロッパの山野に自生。『週刊朝日百科 植物の世界』6-10 
  P. wollastonii(鐘狀垂花報春) チベット・ヒマラヤ産 『週刊朝日百科 植物の世界』6-7
  ユウバリコザクラ P. yuparensis(P.farinosa subsp.yuparensis)
北海道産 
   
 和名は、花の形と色が サクラに似ることから、一説に春に花さくことから。
 学名の属名 Primula は、「最初の primus」の縮小形、春に他の花に先んじてさくことから。英名 primrose も、primerole「最初にさく花」の転訛。
 北海道中南部・本州・九州・朝鮮・中国東北・内蒙古東部・シベリア東南部の湿地に自生。
 日本全国では絶滅危惧Ⅱ類(VU)、東京では絶滅、埼玉県では絶滅危惧ⅠA類(CR)。
 日本では園芸化している。
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 春之部」に、「桜草 中末。花形桜ニ毛頭もたかはす。色むらさきと雪白の二種有」と。
 「河川敷の群落では、春にヨシオギが成長する前に、短い生活期間をもつヤブエンゴサクヒキノカサ・エキサイゼリ・チョウジタデなどが成長し、ヨシと季節的にすみ分けている。荒川沿岸の田島が原のサクラソウも、かつてはこのような環境にあった。」(沼田真・岩瀬徹『図説 日本の植生』1975)
 「荒川沿岸に於けるサクラサウの大群落は、武藏野が天下に誇るべき植物美觀の最優なものであらう。但しその多くは昔の語り草であつて、濫獲と物質文明の壓迫によつて漸次その影を潛め、その跡を絶つに至つたのは誠に歎かはしい次第である。荒川のサクラサウの歴史は遠く徳川初期に始まり、江戸時代には栽培に見物に非常な流行を來したことが種々の文献に現はれてゐるが、戸田の原、尾久、千住、染井などの地名が遊覽地の中に舉げてあるのを見れば全く隔世の感がある。尤も戸田の原や、其の下に續く浮間ケ原などは明治の中頃まで盛んに都の士女の郊外散策の好適地として、一家團欒の行樂地として利用され、大正の中期まで其の名殘を留めて居たが、現在は戸田も浮間も兩方とも大東京市の工場地として全く其の面目を一新し、・・・現在では、もつと上流の地に三四ケ所サクラサウの昔の面影を殘して居る所がある。其の一つは浦和から志木に通ずる道路の南側にある田島ケ原で、年々サクラサウの自生地が破壞されて行くので其の保存の爲大正九年七月、内務省から天然記念物に指定されて嚴密にコンクリートの柵で取り廻らしてある。その上流にある福岡近くの錦ケ原、又その少し上流に當る芝地などがそれで、これらの地方は荒川の氾濫區域に當り、年々春秋の候に泥水を蒙むる爲、地味が肥え、植物の發生に適して固有の原野が發達し、特にこの原野を好んでサクラサウが一面に發生して四月下旬から五月上旬にかけてはまるで紅毛氈を敷いた樣な花盛り、これと混じてノウルシが多い。ノウルシは白い汁の出る毒草であるが、この草の小さい花部を取り卷く數枚の葉は鮮かな黄色を呈し、これ亦大きな群落を作つて萌黄色の毛氈を廣げた樣で、紅色のサクラサウの花と相對して、自然の花園の美觀は全く筆舌に盡し難い。その外にサクラサウ原野の固有の植物には藍紫色の花を開くチャウジサウ、黄色の花のヒキノカサ、淡紅色の花のジロバウエンゴサク、白地に淡紫の絞りのあるシロバナスミレ、赤褐色の花のスイバ、それから前に述べたアマナなど、又未だ花には早いがアマドコロ、レンリサウ、コバギバウシ、ムサシノギバウシ、ノカラマツなど其の他數々の草が生ひ茂り、夏から秋にかけてはヲギヨシの樣な背の高い草が伸び出して、春の美觀とは全く別の趣を呈するが、季節の移り變りと共に植物景觀の變化を觀察するには實に適當な場所である。サクラサウは又内間木、新倉あたりのクロチクの藪の中にもひよろ長くなつて二株三株宛散見することもある。
 荒川流域の地を離れると、サクラサウ並にその原野特有の植物はもう武藏野では絶對に見られぬ。」
(本田正次「武蔵野の野草」。田村剛・本田正次編『武蔵野』所収。1941,科学主義工業社) 
 「・・・現在では、浮間ケ原一帯には一株のサクラソウも野生していない。戦後の開発で失われた一面もあるが、大正の大震災後、急速に失われてしまったそうだ。震災で失われた家屋再建の為、壁土の需要が激増し、壁土として良質の浮間ケ原の土が大量に掘り取られ、それとともにサクラソウが激減してしまったという。」(柳宗民『日本の花』)。
 荒川河川敷田島が原のさくらそう公園は、今日に残るサクラソウの自生地であり、国の特別天然記念物(1920指定)
 この野生のサクラソウを採取して栽培することは、江戸初期から始まった。徳川家康が鷹狩の折にこの花を見て持ち帰って栽培し、家光は品評会を催したと言う。江戸時代には、田島が原のほか、尾久の原・浮間が原・戸田が原などがサクラソウで有名で、花見の客で賑わったと言う。
 江戸時代の中期から、さまざまな花の形や色の変異が作り出され、観賞されてきたが、現在では観賞用の品種は300種の多きに上る。

 埼玉県の花、さいたま市の花。


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