辨 |
今日マキと通称する植物(即ち園芸品としてのマキ)には、次の二種がある。
イヌマキ(クサマキ) マキ科 Podocarpus macrophyllus(羅漢松)
コウヤマキ(ホンマキ) コウヤマキ科 Sciadopitys verticillata(金松)
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裸子植物については、裸子植物を見よ。 |
マキ科 Podocarpaceae(羅漢松 luóhànsōng 科)には、世界に19属 約180種がある。
Acmopyle 3種
スギマキ属 Dacrycarpus(鷄毛松屬) 東南アジア・ニュージーランドに約9種
D. imbricatus(Podocarpus imbricatus;
鷄毛松・爪哇羅漢松・嶺南羅漢松・爪哇松)
廣西・雲南・インドシナ・マレシア産
ウロコマキ属 Dacrydium(陸均松屬) フィリピン以南の太平洋沿岸地方に約20-25種
リムノキ D. cupressinum
D. frankinii
D. pierrei(陸均松・臥子松・泪松・泪柏)
Microcachrys タスマニアに1種
Microstrobos 2種
ナギ属 Nageia(竹柏屬)
Parasitaxus ニューカレドニアに1種
P. usta(Podocarpus ustus) 寄生植物
エダハマキ属 Phyllocladus(葉枝杉屬) フィリピン乃至ニュージーランドに約7種
P. alpinus
マキ属 Podocarpus(羅漢松屬)
Saxegothaea チリに1種
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マキ属 Podocarpus(羅漢松 luóhànsōng 屬)には、約100種がある。
コウトウマキ P. costalis(蘭嶼羅漢松・小葉羅漢松) 臺灣・フィリピン産
リュウキュウマキ P. fasciculus(P.macrophylles var.liukiuensis)琉球・臺灣産
P. forrestii(P.macrophyllus subsp.forrestii;大理羅漢松・滇南羅漢松) 雲南産
イヌマキ P. macrophyllus
カクバマキ 'Tetragona'
イヌマキ(クサマキ) f. angustifolius(f.spontaneus, var.liukiuensis;
狹葉羅漢松・土杉)
ラカンマキ f. macrophyllus(P.macrophyllus var. maki, 'Maki',
P.chinensis;
短葉土杉・短葉羅漢松・小葉土杉・小羅漢松)
葉が細く短く、上向きに密生する
var. macrophyllus(羅漢松) 『全国中草葯匯編』下/381-382
トガリバマキ P. nakaii(P.macrophyllus var.nakaii;臺灣羅漢松・百日靑) 臺灣産
ナンバンイヌマキ(ヤママキ) P. neriifolius(P.philippinensis,
P.fasciculatus;百日靑・脈葉羅漢松・瓔珞松・竹葉松)
臺灣・福建・浙江・江西・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南・ヒマラヤ・インドシナ・マレシア産
『雲南の植物Ⅲ』36・『中国本草図録』Ⅸ/4060
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訓 |
『言海』に、「まき(眞木・槇・披(ママ))〔眞ハ美(ホ)ムル語〕 (一)柏(ヒノキ) 杉(スギ)類ノ通名、(二)羅漢松(イヌマキ)ノ略、(三)薪(タキギ) (東京)」と。『日本国語大辞典 第二版』はこれを踏襲して、「まき【真木・槇・柀】(「ま」は接頭語) ①(すぐれた木の意)
杉や檜などの木の称。 ②植物「こうやまき(高野槇)」「いぬまき(狗槇)」の異名。」と。
すなわち、マキは本来は真木(まき)の意(別に円木(マルキ)説もある)。古くはヒノキ・スギ・マツなど常緑針葉樹の総称、今はコウヤマキとイヌマキを指す。 |
『倭名類聚抄』柀に、「末木」と。 |
「和名まきハ圓木(まるき)ノ略ト謂ヘド如何、昔時すぎヲまきト稱ヘシヲ以テ本種ヲ卑ンデ犬まきト呼ビシナラン今ハ單ニまきトモ稱ス。本まきハまきノ正品ノ意、臭まきハ其材臭ケレバ云フ。俗ニ槇ノ字ヲ用フ」(『牧野日本植物圖鑑』)。 |
『漢語大字典』に、槇は diān と読み、木の頂の意(のちの顚,テン,diān)または木が倒れ伏す意(のちの顚,テン,diān)だが、zhĕn と読めば「羅漢松」のことだとある。されど『植物學大辭典』羅漢松に「日本一名「槇」。或名「柀」。」とあるから、槇をイヌマキとすることは日本語の輸入であろう。
なお、同書に柀は bĭ と読み、榧(ヒ,fĕi)の意という。 |
説 |
本州(関東以西)・四国・九州・琉球に分布。中国では野生は極めて少ないが、江蘇・安徽・浙江・福建・江西・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南で観賞用に栽培。 |
誌 |
中国では、イヌマキ・ラカンマキの根・果実を、羅漢松と呼び薬用にする。 |
槙の文化史は、コウヤマキをも見よ。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻三「冬木之分」に、「羅漢樹 葉かうやまきのごとく少黑ミ有。夏より秋の内、葉の間ニちさき実あり、宛(あたか)仏の形也。故ニらかんじゆト云」「いぬ槙 かうやまきのごとし。買(かふ)人、吟味有べし」と。 |
み寺なる朝のいづみに槇の木実(このみ)青きがあまた落ちしづみけり
(1930「昭和五年八月十三日朝、近江なる蓮華寺に著きぬ」,齋藤茂吉『たかはら』)
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