辨 |
ゴマには、蒴果の形(4稜・6稜・8稜など)・種子の色(黒・白・黄・褐など)など、さまざまな品種がある。 |
ゴマ科 Pedaliaceae(芝麻 zhīmá 科)には、旧世界の熱帯・亜熱帯に約11-14属 約50-74種がある。
ゴマ属 Sesamum(芝麻 zhīmá 屬) 主としてアフリカに約19-30種
ゴマ S. indicum(S.orientsle;芝麻)
S. triobum(Ceratotheca triloba)
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訓 |
漢名に麻(マ,má)と言うものは、もともとはタイマ(大麻)。
後にタイマのように繊維を取る植物、例えばアマ(亜麻)・チョマ(苧麻)・コウマ(黄麻)・ケイマ(莔麻)・ケナフ(洋麻)なども麻と呼んだ。 |
胡麻(コマ,húmá)の語は、漢代から現れ、もとゴマ(胡麻・芝麻)および油用のアマ(亜麻)を指した。今日でも甘粛地方では、油用のアマを胡麻と呼ぶ。
あたまに胡とつくのは、
① 西方の大宛(フェルガナ)よりもたらされたことから(陶弘景)、
② 胡は大の意で、アサに比べて葉が大きいことから(孫星衍)、
③ 胡は戟の意(『広雅』釈器)で、その株の形から、
などとする説がある。 |
芝麻(シマ,zhīmá)の名は、後趙の石勒が胡の字を諱んで、胡麻を芝麻に改めたものと言う。今日の中国では、胡麻よりも芝麻の名の方が 一般的に通用する。 |
和名は漢名の音。
『倭名類聚抄』胡麻に「音五万、訛云宇古末」と。『延喜式』胡麻に「コマ」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』18 胡麻に、「ウゴマ和名鈔 ゴマ」と。 |
説 |
アフリカのサバンナ地帯原産、インドで分化し、アジア・アフリカの熱帯・乾燥地域で広く栽培され、多数の品種がある。
『千夜一夜物語』に「開けゴマ」のまじない句があるように、西アジアでは広く普及している。
インドには、アーリア民族とともにインダス流域にもたらされたという。
中国には、紀元前1世紀ころ張騫によって西方からもたらされたと伝えられる。
日本には早くから入り、天平時代には栽培していた。 |
種子は、約50%の油、約20%の蛋白質を含む。
和名を胡麻子、漢名を芝麻といい、薬用・食用に供するほか、絞って胡麻油(ごまあぶら。英名は Sesami oil、漢名は芝麻油 zhimayou・香油 xiangyou・麻油 mayou。ただし漢名を胡麻油 humayou・胡麻子油
humaziyou というものはアマニ油)を採る。 |
誌 |
近年の中国では、銭山漾(センザンヨウ。浙江省呉興)新石器時代遺跡などからゴマの種が出土しているので、五千年以上昔からゴマが栽培されていた、とする。 |
先秦の文献には、五穀・九穀の一として、主要な穀物に「麻」が挙げられている。この麻について古来議論があり、一説にタイマの実(漢名は麻子 mázĭ)とし、一説にゴマの実(漢名は芝麻 zhīmá)とする。今日でも両説並立し、決しない。 |
中国では、茎を麻秸と呼び、葉を胡麻葉(靑蘘)と呼び、花を胡麻花と呼び、白い種子を白脂麻と呼び、黒い種子を黒脂麻と呼び、実の殻を芝麻殻と呼び、それぞれ薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.418-420 『(修訂) 中葯志』III/640-643
日本では、生薬ゴマは ゴマの種子であり、ゴマ油は ゴマの種子から得た脂肪油である(第十八改正日本薬局方)。そのほか、ゴマ油を食用・整髪用などに供する。 |
今日の中国では、胡麻子として用いる中薬はアマの種子(亞麻子)であるという。
亞麻が文献に記されるのは宋の『図経本草』以後であり、明代以前の胡麻はゴマであったろう、という。『中薬志Ⅱ』pp.291-296 |
賈思勰『斉民要術』(530-550)巻2に、胡麻の章がある。 |
六朝から唐には、飯にして食い、「一年にして色美しく身体は滑らかに、二年にして白髪は黒く、三年にして歯が抜け替り、四年にして水に入るも濡れず、五年にして火に入るも焦げず、六年にして走れば奔馬に及ぶ」とされ(『抱朴子』)、僧侶・道士の間でよく利用された。 |
日本では、10世紀初から記録がある。 |
胡麻塩・胡麻味噌など香味料として幅広く用い、また胡麻油は揚げ油・炒り油として普通に用いる。
炒り胡麻は、焙烙に入れて火にかけ、絶えず攪拌しながら、三粒はねた程度まで炒ったもの。或は、奉書紙に乗せ、遠火にかざして加熱する(本山荻舟『飲食事典』)。
胡麻塩は、炒り胡麻を摺り、炒った塩を加えたもの(『言海』)、或は、黒胡麻を洗って水切りし、焙烙で食塩を炒り、濡れた胡麻を入れて更にかき回しながらラサラになるまで炒ったもの(本山荻舟『飲食事典』)。
胡麻味噌は、「炒ゴマをすって味噌と和し、更によくすりまぜて砂糖・味醂などを適宜に加え、嘗物として卓上に常備する」(『同上』)。
胡麻酢は、炒り胡麻をよくすりつぶし、酢・塩・砂糖・味醂などで摺り伸ばしたもの(『同上』)。 |
胡麻和えは、炒り胡麻をすりつぶし、塩・砂糖・醤油などで調味し、野菜などに和えたもの。醤油の替りに白味噌をすり合わせて、胡麻味噌和えとすることもある(『飲食事典』)。
白和えは、白胡麻を炒ってすりつぶし、白味噌・白砂糖・豆腐(布巾で包んで水気を搾ったもの)をすり混ぜ、好みの材料を入れて和える。クルミの薄皮を剥いてすり混ぜると風味が上る(『飲食事典』)。 |
唐辛子・胡麻・山椒・芥子の実・麻の実・菜種・陳皮をあわせた香辛料を、七味唐辛子という。 |
「胡麻菓子(ごまかし)」とは、文化文政時代に江戸で行われた胡麻胴乱(ごまどうらん)という菓子の別名。小麦粉に胡麻を混ぜて、焼いて膨らしたもの。
一説に、このことから、見掛けは立派でも中身がないことを「胡麻菓子」と呼ぶようになった、という。
「ごまかす」の語源について別の説では、「いかなる食品もゴマを用いれば美味に化するとの意」(『飲食事典』)。 |
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