辨 |
オオムギ属 Hordeum(大麥 dàmài 屬)には、世界の温帯に約34-40種がある。
H. bogdanii(布頓大麥草・毛稃大麥草)
チシマムギクサ H. brachyantherum(H.boreale;短葯大麥草)
北米西岸・アリューシャン・千島に分布
ライムギモドキ H. brevisubulatum(短芒大麥草・野黑麥)
H. bulbosum(球莖大麥)
ホソノゲムギ H. jubatum(芒穎大麥草)
H. marinum
ヒメムギクサ subsp. gussoneanum(H.hystrix, H.geniculatum)
ハマムギクサ subsp. marinum(鹼大麥) 歐洲原産
H. murinum
subsp. glaucum 北アフリカ・西アジア・西ヒマラヤ産
オオムギクサ subsp. leporinum(H.leporinum;兔大麥)
地中海地方・西アジア・西ヒマラヤ産
ムギクサ subsp. murinum 歐洲産
ミナトムギクサ H. pusillum 北米原産
H. secalinum(大麥草) 地中海地方・中&北歐洲・北西アフリカ・カフカス産
オオムギ H. vulgare(大麥)
アオハダカムギ var. coelestre
ヤバネオオムギ(ビールムギ・二条オオムギ) var. distichon(H.distichon;
栽培二稜大麥)
ロクジョウオオムギ var. hexastichon 主に関西以西で栽培
ハダカムギ var. nudum(H.distichon var.nudum;裸麥)
var. spontaneum(H. spontaneum;鈍稃野大麥) オオムギの唯一の野生種
シジョウオオムギ var. vulgare(大麥) 東北・北陸で栽培、主に外国産
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オオムギ属 Hordeum の植物は、総状花序の各節に小穂を3個づつ 二列につける。Hordeum vulgare には、そのうち中央の1小穂のみが結実するものと、3つの小穂すべてが結実するものとがあり、前者を二条オオムギ、後者を六条オオムギ(本項)と呼ぶ。二条・六条とは、熟した穂に並び連なる穀粒の「すじ」の数を云う。
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麦については、むぎを見よ。
イネ科 Poaceae(Gramineae;禾本 héběn 科)については、イネ科を見よ。 |
訓 |
ムギ(麥・麦)については、むぎを見よ。
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『本草和名』大麦に、「和名布止牟岐」と。
『倭名類聚抄』大麦に、「和名布土無岐、一云加知加太」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』大麦に、「カチカタ和名鈔 フトムギ同上 オホムギ」と。 |
説 |
オオムギは、はじめイラク-トルコの山岳地帯でB.C.7000頃に栽培され始め、やがて栽培種が成立したと考えられている。
西方には、B.C.4200-2500ころヨーロッパに伝わり、ギリシア・ローマ時代にはヨーロッパ各地で主食とされていた。
中国ではB.C.2700ころすでに栽培されていた、最古の主食用穀物。 |
日本には、小麦より遅れて三世紀ころ入った。
イネとの二毛作の裏作として作られるのは、栽培期間の短いハダカムギ(裸麦)。 |
誌 |
コムギと異なりグルテンを含まないのでパンには向かず、西方ではビールやウィスキーの原料とする。
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中国における誌は、むぎを見よ。 |
中国では、熟した穎果の発芽したものを麥芽(バクガ,màiyá)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.167-169 『(修訂) 中葯志』III/355-357『全国中草葯匯編』下/311-312
日本では、生薬バクガは オオムギの成熟したえい果を発芽させて乾燥したものである(第十八改正日本薬局方)。 |
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日本では、粒食するほか、味噌・醤油・焼酎・菓子などの原料とする。 |
米と混炊してむぎめし(麦飯)として食う。
まず大麦を煮て蒸らし、咲(エ)みふくらして「咲まし麦」とし、これを米と混炊する。(今日では、大麦を蒸気圧扁したおしむぎ(押麦)が流通しているので、これを一夜水に浸けて米と混炊する)。
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こがし(焦)は、米・大麦などを炒り焦して、碾いて粉にしたもの。はったいともいう。
『言海』に、「はつたい(糗麨)〔はたきノ音便訛、臼ニテ碎ケバイフナラム、或云、初田饗(ハツタアヘ)ノ約〕農家ニテ、米、麥ノ新穀ヲ焦シテ、粉ニシタルモノ、家家ヘ贈ル。麥ノはつたいハ、むぎこがしナリ」と、また「むぎこがし(麥焦) 大麥ヲ炒リ焦シテ、碾キテ粉トセルモノ、砂糖ヲ和シテ水ニ煉リて食ヒ、或ハ菓子種トモス、略シテ、コガシ。又、イリムギ。麥ノハツタイ」と。 |
ばくが(麦芽)・おおむぎばくが(大麦麦芽)は、オオムギの種子を発芽させて乾燥したもの、「ビール・アルコールの醸造、またアメ製造のとき原料の澱粉を糖化するに用いられる」。なお、コムギ麦芽もあり、主として白ビール醸造に用いる。 (本山荻舟『飲食事典』) |
『古事記』上に、須佐之男命(すさのおのみこと)に殺された大気津比売(おおげつひめ)の体から五穀が生じたという。すなわち「故(かれ)、殺さえし神の身に生(な)れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰(ほと)に麦生り、尻に大豆生りき」と。この麦は、オオムギ(六条種)であるらしい。
『日本書紀』神代第5段一書第11に、保食神(うけもちのかみ)に関わる同様の説話が載る。 |
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いざともに穗麦喰はん草枕
行駒の麦に慰むやどり哉 (芭蕉、『野ざらし紀行』1985)
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