こむぎ (小麦) 

学名  Triticum aestivum
日本名  コムギ
科名(日本名)  イネ科
  日本語別名  パンコムギ、マムギ、コゴミ
漢名  小麥(ショウバク,xiăomài)
科名(漢名)  禾本(カホン,héběn)科
  漢語別名  
英名  Common wheat
   
   コムギ属 



  薬用
  食用
    小麦粉 
      

2005/05/24 東大農園

 コムギ属 Triticum(小麥 xiăomài 屬)は、変異が大きいので、かつては20以上の種が記録されたが、今日ではこれらを次の数種にまとめる。

   T. aestivum(T.sativum, T.vulgare;小麥) 普通系、6倍体AABBDD、栽培型のみ。
        
パレスチナコムギと タルホコムギ Aegilops squarrosa の雑種、カスピ海西部で成立
     subsp. aestivum
トランスコーカサス・北西イラン産
     subsp. compactum(T.compactum)
トランスコーカサス~イスラエル産
     subsp. macha(T.macha, T.spelta subsp.macha)
 西トランスコーカサス産
     スペルタコムギ subsp. spelta(Spelta vulgaris, T.spelta;德國小麥)
        
皮性、西トランスコーカサス産
     subsp. sphaerococcum(T.sphaerococcum)
パキスタン・北西インド産
     パンコムギ(普通コムギ) subsp. vulgare 裸性、グルテンが強い

   T. monococcum(一粒小麥)
1粒系、2倍体AA、野生亜種と栽培亜種がある。
     野生アインコルンコムギ subsp. aegilopoides(subsp.boeoticum,
         T.aegilopoides, T.boeoticum)
        
バルカン~イラン(ザグロス山脈)産 アインコルンコムギの祖先野生種
     アインコルンコムギ subsp. monococcum
         
突然変異で生じた栽培亜種、9000年前に西アジアの新石器文化で栽培、
        
5000年前までに地中海地方・ヨーロッパに伝播

   T. timopheevi(提莫非維小麥) ティモフェービ系、四倍体AAGG、野生亜種と栽培亜種がある。
     アルメニアコムギ subsp. armeniacum(T.armeniacum,
        T.turgidum subsp.armeniacum, T.dicoccoides subsp.armeniacum)
        
野生種、野生アインコルンコムギと クサビコムギ Aegilops speltoides の雑種
     チモフェービコムギ subsp. timophoeevi(subsp.araraticum, T.araraticum)
        
AAGG、アルメニアコムギから栽培化。今日ではグルジア西部で栽培。

   T. turgidum(圖維小麥)
2粒系、4倍体AABB、野生亜種と栽培亜種がある。
     subsp. carthlicum
     パレスチナコムギ(野生エンマーコムギ・ノハラフタツブコムギ)
          
subsp. dicoccoides(T.dicoccoides)
        
野生四倍体AABB 野生アインコルンコムギとクサビコムギ Aegilops speltoides の雑種
     エンマーコムギ subsp. dicoccum(T.dicoccum)
        突然変異で生じた栽培亜種、9000年前に西アジアの新石器文化で栽培、
        5000年前までに地中海地方・ヨーロッパに伝播
     マカロニコムギ
(デュラムコムギ) subsp. durum(T.durum) 
        
裸性、地中海地方産
     subsp. georgicum
     subsp. polonicum
     subsp. turanicum(T.turanicum;雜生小麥)
     subsp. turgidum

   ウラルトゥコムギ T. urartu(烏拉爾圖小麥)
二倍体野生種AA 西アジア産

   T. zhukovskyi
ジュコブスキー系、栽培型のみ。
        六倍体、栽培1粒系とチモフェービコムギの雑種、トランスコーカサス産、1957発見
 
 麦については、むぎを見よ。
 イネ科 Poaceae(Gramineae;禾本 héběn 科)については、イネ科を見よ。
 むぎを見よ。
 『本草和名』小麦に、「和名古牟岐」と。
 『倭名類聚抄』小麦に、「和名古牟岐、一云末牟岐」と。
 イネトウモロコシとともに世界三大穀物の一。   
 コムギは、B.C.9000ころからメソポタミアで利用され始め、B.C.7000-6000ころには栽培化された。なかでも、栽培・収穫量・脱穀・製パンなどの点で優れていた普通系コムギは、B.C.6000ころに西アジアで成立したらしく、B.C.4000ころにはエジプトやドナウ川・ライン川流域に、B.C.3000ころには全ヨーロッパに、伝わった。
 東方には、B.C.2000ころにインダス平原や黄河流域に伝わった。
 日本では、縄文晩期には栽培され始めていた。奈良時代には広く栽培されるようになっており、水田の裏作として栽培されるようになったのは奈良時代または鎌倉時代といわれる。
 今日の中国では、華北(淮河以北・陝甘以東)の主作物、かつ・主食。
 〔なお、淮河以南・四川以東の主作物・主食はコメ。〕   
 こんにち世界で最も広く栽培されているのは、普通系のパンコムギ T.aestivum であるが、マカロニコムギ(デュラムコムギ)T. durum も 中央アジアから欧米にかけて広く栽培されている。
 また、むぎをも見よ。   
 薬用には、中国で、水に浸して浮いてくる穎果を浮小麥(フショウバク,fúxiăomài)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.377-379 『(修訂) 中葯志』III/552-554 
 食用には、「小麦は外皮が硬くて粒食に適しないため、麹にして味噌・醤油などの原料にするほかはすべて製粉してパン・団子・ウドン・ソウメンなどの麺類また菓子材料などにして食用する」(本山荻舟『飲食事典』)。 
 こうじ(麴・麹)は、「コメ・ムギ・ダイズなどの穀類を蒸して適当の温度と湿度を保つ場所に置き、いわゆる麹カビを繁殖させたもの。このカビの分泌する酵素を利用して澱粉を糖化し、蛋白質などを可溶性の分解物にするので、酒・醤油・味噌・タマリ・濁酒・焼酎・味醂・白酒・酢・アルコールなどの醸造物をはじめ、甘酒・納豆・漬物・各種菓子類のほか消化剤・酵素剤の製造にも使用される」、「米麹の大半は清酒用に向けられ、・・・醤油麹は小麦・大豆を原料とし、タマリや三州味噌はもっぱら大豆麹でつくられる」(本山荻舟『飲食事典』)。
 こむぎこ(小麦粉)は、コムギの種子を製粉し、皮の屑を除いた粉、漢名は麪・麵 (ベン,miàn,めん;簡体字は面)。ふるい落された皮の屑はふすま(麩;別名もみじ・からこ・むぎかす)、漢名は麩(フ,fū)
 含まれる蛋白質グルテンの量に差があり、強力粉からはパンを作り、中力粉(うどん粉)からはうどんを作り、薄力粉からは菓子・てんぷらを作る。
 また、「外国産及び邦産小麦でも新式の製粉機にかけて純白に精製したものをメリケン粉、邦産小麦を旧式方法で製粉したものをウドン粉と」呼ぶ(本山荻舟『飲食事典』)。
 なお、うきこ(浮粉)は、「小麦粉中の蛋白主体である麩質(グルテン)をとるため水中に沈殿させ。浮上ってくる澱粉質を集めて精製したもの。菓子材料、蒲鉾そのた食料品の加工用、また餅の取粉など用途が広く、紅を凝結させる際にも使う」(本山荻舟『飲食事典』)。下記のを参照。 
 「中国の小麦消費の形態は、全量の約二割がいろいろの形のピン(餅)類となり、約四割がウドン類(麵、麵條子)、同じく四割がマントウ(饅頭)として食べられていると見做している」(中尾佐助「料理の起源」,『著作集 Ⅱ』所収)。 
 小麦粉に水を加えてこね、平たく丸くして焼いたものを、漢語で餠(ヘイ,bĭng)・燒餠(ショウヘイ,shāobĭng,シャオピン)と呼ぶ。中国北部で常食する。これとよく似ているものは、インドのチャパティ。
 ヨーロッパで行われるパン pao, bread は、小麦粉に水を混ぜて捏ね、パン生地 dough を作り、一晩おいてイースト菌発酵させて膨らませ、これを焼いて作る(蒸したものは蒸しパン)。膨らませるには、イースト菌を加えて即席発酵させたり(イースト菌の分離は19c.後半)、ふくらし粉 baking powder で膨らませることもある。
 日本には天文年間ポルトガル人により齎された。幕末に高島秋帆・江川担庵らに取り入れられたが、広く行われたのは日清戦争時に軍糧とされてから。 『言海』(1889)には、「パン(麪包)〔葡萄牙語、Pan.〕 小麥粉ニ甘酒ヲ加ヘ、水ニ捏ネ合ハセテ、蒸燒キニシタルモノ、饅頭ノ皮ヲスルガ如シ、西洋人、常食トス、アンナシマンヂユウ」と。 
 漢名は、
麪包・麵包(ベンホウ,miànbāo,めんほう;簡体字は面包)。 
    
   
 すいとん(炊団)は、「スヰトン(水團)〔字ノ唐音〕 うどんこヲ水ニ捏ネテ、程ヨク摶(カタ)メ、汁ニ落シテ、煮タルモノ」(本山荻舟『飲食事典』)。つまり小麦粉で作る団子汁。

 日本では、小麦粉を水溶きして鍋に薄く流して焼き、片面に味噌を塗って巻いたものを江戸時代に ふのやき(麩の焼,助惣焼・きぬた焼)と呼んだ。後に練り餡を詰めるようになり、これを江戸できんつば(金鍔)、京阪でぎんつば(銀鍔)と呼んだ。また水溶きした小麦粉を好きに整形して焼く もんじやき(文字焼,訛ってモンジャ焼,一名ドンドン焼)が起り、明治時代に児童間に流行した。大正以降、具にキャベツ・魚介・肉などを加えるようになり、今日のお好み焼きが成立した。 
 銀鍔焼は、17c.の京都で粳米粉で小豆餡を包み、平たい楕円形に整えて焼いたもの。形が刀の鍔に似て、表面の色が白いのでこの名がある。これが江戸に入り、皮にうどん粉を用いるようになって金鍔と呼ばれた。
 今日の金鍔は、潰し餡を厚く四角に整え、周りに水溶きした小麦粉をつけて焼いたもの。
 さくらもち(桜餅)は、「小麦粉の皮に小豆餡を包んで、上を塩漬の桜葉でおおい、蒸籠で蒸したもの」、「江戸時代に柏餅の類似品として下総銚子生れの山本新六なる者が創製し、向島長命寺内に売出したのが元祖で春季桜時の名物となり、淡雅な風趣が江戸人の嗜好にかなって明治以後まで持続し、戦後も復活」したもの、今は「各所の菓子舗でつくるようになり、皮にも米粉を用い色附・味附けをして純然たる蒸菓子となった」(『飲食事典』)。
 どらやき(銅鑼焼)は、小麦粉・卵・砂糖を水に溶き、鉄板の丸型に流し込んで皮を作り、二枚で小豆餡を挟んだもの。平たく丸い形を銅鑼に擬してこの名がある。 
 せんべい(煎餅)は、『言海』に、「せんべい(煎餅) (一) 麪粉ヲ油に熬リタルモノ。 (二) 麪粉(ウドンコ)ニ糖蜜ヲ加ヘテ、捏ネテ、鐡ノ方圓種種ノ模(カタ)ニ入レテ焙(アブ)リ燒ケルモノ、薄片トナル」とある。(一)は漢土の煎餅(センヘイ,jiānbĭng)、薄いパンケーキのようなもの。(二)は我邦のセンベイ。
 本山荻舟『飲食事典』に、「小麦粉または糯米粉を中心に砂糖を加えて種汁を作り、種々の型に入れて焼いたもの。・・・本来塩煎餅は糯米粉を用い、蒸て臼で搗いたのを薄く伸ばして丸形に押切り、最初は塩味であったから塩煎餅と名づけたので、炭火で焼くと蒲の背の如くイボイボができるのを、鬼面に見立てて鬼煎餅と呼んだともあるが、後には醤油の附焼きとなり・・・」と。    
 ギョーザ(餃子,コウシ,jiăozĭ)は、餡(カン,xiàn,あん;具の意)を麵(メン,miàn;小麦粉の意)で三日月型に包んだもの(『中華字典』)。和名ギョーザは jiăozĭ の訛り。
 「蒸すかゆでるか焼くかの三法があって、一般人が飯代りに食うのは大抵水餃子(スイチャオズ;ゆでたもの)である。蒸したのは蒸(ジュン)チャオズまたは大麵(ターミン)チャオといい、焼いたのは鍋貼(ゴーテエ)という。云々」(本山荻舟『飲食事典』)。   
 うどん(饂飩)は、『言海』にはうんどん(饂飩)とある。漢名は麪條麵條(メンジョウ, miàntiáo,簡体字は面条)
 本山荻舟『飲食事典』うどん(饂飩)の項には、「もと奈良時代に渡来した唐菓子の一種で、最初は小麦粉の団子に餡を入れて煮たのを混沌(コントン)と呼んだ。丸めた団子はくるくるとして端がないからコントンといわれたが、食物であるから食扁に改めて餛飩(コントン)となり、熱く煮て食うところから温飩となり、さらに転じて饂飩(ウドン)になったという」、なお餛飩(コントン)は「きざんだ肉を麵に包んで煮た饅頭ようの汁」。
 うどんは、かつてはきりむぎ(切麦)むぎきり(麦切)と呼ばれた。「きりむぎ(切麥) 小麥粉ヲ饂飩ノ如ク製シテ、極メテ細ク切リて緒(ヲ)ノ如キモノ、煮(ユ)デテ水ニ冷シテ食ヘバ冷麥(ヒヤムギ)トモイフ」(『言海』)。
 うどんのうち、ひもかわ(紐革)は薄く平らに切ったもの。「東海道の芋川・池鯉鮒(チリフ)・鳴海あたりから製造し始めたと伝えられる。キシメンは薄く伸ばしたのを碁子(キシ)のように打抜いたものだというが、いまのは紐革と同じ平打で名古屋の名物になっている」、きしめんは「小麦粉の水で練ったのを、小さく摘み取ってまるめ、碁石のように押し伸ばして煮たのでキシメンとよばれたのが、後にはウドンのように麺棒で押し伸ばしてから碁石形に打抜き、さらに転じて平ウドンのように長く作ったのを旧称のままキシメンとよぶのだという」(本山荻舟『飲食事典』)。           」   
 うどんの食い方に、すうどん(素饂飩)たねもの(種物)がある。
 すうどん(素饂飩,東京では かけうどん)は、京阪では通が好む。
 釜揚うどんは、茹でたうどんを釜のまま出したもの。今日は桶に入れなおして出す。一名、あつむぎ(熱麦)。
 ひやむぎ(冷麦)は、うどんを冷やしたもの。今日は細切りの乾麺をゆでて冷して作る。
 種物には、餡かけ・天麩羅・玉子とじ・南蛮
(ネギを加えたもの)・小田巻(茶碗蒸しに饂飩を加えたもの)・信田(シノダ;味醂醤油で煮た油揚を載せたもの;京阪で信田、東京でという)・おかめ(蒲鉾・椎茸・青菜などを載せたもの)・にしんうどんなどがある。  
 ふ(麩)は、「麩(フスマ)ト小麥粉トヲ水ヲ和シ、鹽ヲ少シ加ヘテ、頻ニ揉ミ、頻ニコネテ、水ニ浸シテ成ル、餅ノ如シ、煮テ食フ」と(『言海』)。なお、ふすま(麩)は「ムギカス、小麥粉ヲ製セル後ノ皮屑」(『同』)。
 主要な成分はグルテン gluten で、「植物性蛋白質の給源として消化吸収率が高く、小麦製品中もっともすぐれた栄養食品」(本山荻舟『飲食事典』)。  
 今川焼は、「小麦粉を水ときして円型に流しいれ、餡を包んだ焼き菓子。江戸時代神田今川橋辺の小店から売り出したのでこの名があり、・・・明治年間最も流行した」(本山荻舟『飲食事典』)。  
   
 パンは、
 小麦粉の水を混ぜて捏ね、パン生地 dough を作る。これを一晩おいてイースト菌発酵させ、焼いて作る。イースト菌を加えて即席発酵させることや、ふくらし粉 baking powder で膨らませることもある。  
 カステイラ・カステラは、スポンジケーキ sponge cake の一(なお、スポンジは海綿)。日本には天正年間ポルトガル人が齎した。名は、スペインの地方名 Castilla に因む。「製法は白砂糖と卵黄とを静かにまぜ合わせ、カステイラ竈でふうわりと焼上げ、最後に結晶した砂糖の粉末を塗りつける」(本山荻舟『飲食事典』)。長崎で作られ始め、京から江戸に及んだ。    
    
    
2004/04/24  三芳町竹間沢 2004/04/28 所沢市坂之下
2005/05/16  新座市大和田
2004/05/20 富士見市水子 2004/06/03 清瀬市下宿 2004/05/20 所沢市南永井



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