| 辨 | 野菊は、家菊(いえぎく)の対語。家菊が、栽培品であるキクを指すのに対して、野辺に野生する菊の仲間を通称する。 
 主な野菊の仲間を一覧する。
 
 白色から薄紫色の野菊
 
              
                
                  | 和名 | 漢名 | 学名 | 日本における分布域など |  
                  | 〔ほぼ全国に産〕 |  
                  | リュウノウギク |  | Chrysanthemum makinoi | 本州(宮城新潟以南)・四国・宮崎に分布。 |  
                  | ノコンギク | 三褶脈紫菀 | Aster microcephalus  var. ovatus | 北海道・本州・四国・九州に分布。 園芸品はコンギク。
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                  | シロヨメナ | 光葉三脈紫菀 | Aster leiophyllus var. leiophyllus | 北海道・本州・四国・九州に分布。 |  
                  | シラヤマギク | 東風菜 | Aster scaber | 北海道・本州・四国・九州に分布。若菜を食い、婿菜と言う。 |  
                  | 〔主に西日本産〕 |  
                  | ヨメナ | 鋭齒馬蘭 | Aster yomena var. yomena | 狭義の野菊。本州中部以西(特に関西)に分布。若菜を食う。 |  
                  | ミヤマヨメナ | 忘都草 | Aster savatieri | 本州(箱根以南)・四国・九州に分布。花期は5-6月。 園芸品はミヤコワスレ。
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                  | オオユウガギク |  | Aster yomena var. angustifolius | 本州(愛知県以西)・四国・九州に分布。 |  
                  | コヨメナ | 馬蘭 | Aster indicus | 四国・九州に分布。花期は、南方では一年中。 |  
                  | 〔主に東日本産〕 |  
                  | ゴマナ |  | Aster glehnii | 本州・北海道に分布。 |  
                  | ユウガギク | 柚香菊 | Aster iinumae | 本州(近畿以北)に分布。 |  
                  | カントウヨメナ |  | Aster yomena var. dentatus | 本州(関東・東北)に分布。 |  
                  | カワラノギク |  | Aster kantoensis | 本州(関東・静岡県東部)に分布。 |  黄色の野菊
 
 
              
                
                  | 和名 | 漢名 | 学名 | 日本における分布域など |  
                  | アワコガネギク (キクタニギク)
 | 甘野菊 | Chrysanthemum seticuspe f. borelae | 本州(岩手~近畿)・壱岐・対馬に分布。 |  | 
          
            | 漢名を野菊(ヤキク,yĕjú)というものは、次のようなものである。 
 シマカンギク(ハマカンギク・アブラギク) Chrysanthemum indicum
 (野菊・野黃菊・苦薏)
 ホソバアブラギク Chrysanthemum lavandulaefolium
 (細裂野菊・岩香菊・野菊・甘菊・甘野菊)『中国本草図録』Ⅰ/0379・Ⅴ/2360
 アワコガネギク(キクタニギク・アブラギク) Chrysanthemum seticuspe f. borelae
 (甘野菊・北野菊)『中国雑草原色図鑑』245
 
 いずれも、花は黄色。
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            | 栽培されている菊については、キク Dendranthema grandiflorum を見よ。 キク科 Asteraceae(菊 jú 科)の植物については、キク科を見よ。
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            | 訓 | 小野蘭山『本草綱目啓蒙』11 に、「野菊 アブラギク センボンギク イハヤギク」と。 | 
          
            | 説 |  | 
          
            | 誌 | なでしこの暑さわするゝ野菊かな (芭蕉,1644-1694)
 
 なつかしきしをにがもとの野菊哉 (蕪村,1716-1783。しをにはシオン)
 
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            | 道の真中は乾いているが、両側の田についている所は、露にしとしとに濡れて、いろいろの草が花を開いている。タウコギは末枯(うらが)れて、水蕎麦(みずそば)蓼(たで)など一番多く繁っている。都草も黄色く花が見える。野菊がよろよろと咲いている。民さんこれ野菊がと僕は吾知らず足を留めたけれど、民子は聞えないのかさっさと先へ行く。僕は一寸脇へ物を置いて、野菊の花を一握り採った。 ・・・
 「・・・まア綺麗な野菊、政夫さん私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」
 「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き・・・」
 「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」
 「民さんはそんなに野菊が好き・・・道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
 民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。二人は歩きだす。
 「政夫さん・・・私野菊の様だってどうしてですか」
 「さアどうしていうことはないけれど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
 「それで正雄さんは野菊が好きだって・・・」
 「僕大好きさ」
 民子はこれからはあなたが先になってと云いながら、自らは後になった。
 (伊藤左千夫『野菊の墓』1906)
 
 小説の舞台は、矢切の渡しを東に渡り、丘に登ったところ、
 今日の千葉県松戸市下矢切附近。
 時は、陰暦の九月十三日の「露霜が降りたかと思うほどつめたい」朝。
 一握り採った「よろよろと咲いている」野菊というのは、
 カントウヨメナか、或はユウガギクだろうか。
 なお、文中、水蕎麦はミゾソバ、都草はミヤコグサ。
 蓼は種々ありえるが、サクラタデ、ボントクタデなどか。
 タウコギは、本譜にはまだ写真が無い。
 
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            | 文部省唱歌「野菊」(1942,石森延男作詞)
 
 遠い山から 吹いて来る
 小寒い風に ゆれながら
 けだかくきよく 匂う花
 きれいな野菊 うすむらさきよ
 ・・・
 
 (詠み込まれているのは薄紫色の花をさかせる野菊、
 ヨメナ・カントウヨメナ・ノコンギクあたりか)
 
 
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