辨 |
漢語では、実が粘り 茎に毛があるものを黍(ショ, shǔ)と呼び、実が粘らず 茎に毛がないものを稷(ショク, jì )と呼び、区別する。 |
キビ属 Panicum(黍 shǔ 屬)には、世界の熱帯乃至暖帯に約500種がある。
ニコゲヌカキビ P. acuminatum(Dichanthelium acuminatum)
P. austro-asiaticum (南亞稷)
ヌカキビ P. bisulcatum (糠稷・糠黍)『中国雑草原色図鑑』312
クサキビ P. brevifolium (短葉黍)東南アジア・熱帯アフリカ産
ハナクサキビ(キヌイトヌカキビ) P. capillare 北アメリカ原産
P. cruciabile (剛脈稷)
オオクサキビ P. dichotomiflorum(洋野黍) 北アメリカ原産
イヌヤマキビ P. incomtum (藤竹草)東南アジア・インド産
ニコゲヌカキビ P. lanugiosum (P.acuminatum;綿毛稷)北アメリカ原産
ギネアキビ P. maximum (大黍)熱帯アフリカ原産
キビ P. miliaceum (稷 jì ・黍・糜子) 『中国本草図録』Ⅵ/2922
P. notatum(心葉稷)
オオヌカキビ P. paludosum(水生黍)
P. psilopodium(細柄黍)
var. epaleatum(無稃細柄黍)
ハイキビ P. repens (鋪地黍・硬骨草・田基薑・風臺草・竹蒿草頭・馬鞭節)
『中国本草図録』Ⅸ/4395・『中国雑草原色図鑑』313
ホウキヌカキビ(ケヌカキビ) P. scoparium 北アメリカ原産
P. trichoides (發枝稷)
P. trypheron (旱黍草)
P. virgatum (柳枝稷)
P. walense(南亞稷)
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イネ科 Poaceae(Gramineae;禾本 héběn 科)については、イネ科を見よ。 |
訓 |
和名は、黄実の転訛、実が黄色いことから。 |
中国において古来穀物を表してきたさまざまなことば(文字)については、五穀を見よ。 |
種子がモチ性のものを黍、ウルチ性のものを稷・穄(セイ,ji)と区別したほか、秬(キョ,ju)・秫(ジュツ,shu)・秠(ヒ,pi)などの方言があった。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、丹黍は「和名阿加岐々美」、黍は「和名岐美」、稷は「和名岐美乃毛知」と。
源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、秬黍は「和名久呂木々美」、秫は「和名木美乃毛智」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』19(1806)に、「稷 キビ コキビ大和本草 イネキビ ウルシキビ」、「黍 コキビ モチキビ」と。 |
説 |
原産地は中央・東アジア温帯の乾燥地帯。中国では、新石器時代から栽培する。 |
誌 |
中国では、漢代まで、華北における重要な穀物であり、主食とするほか、酒を醸した。五穀を見よ。
また、黍の根を黍根と呼び、茎を黍莖と呼び、種子を黍米と呼び、稷の茎を糜穰と呼び、種子を稷米と呼び、それぞれ薬用にする。
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『詩経』国風・王風・黍離(しょり)に、「黍はよく実り、稷は苗がのびる」と。 |
『礼記』「月令」五月に、「農乃ち黍を登(すす)む。天子乃ち雛を以て黍を嘗む」と。
『大戴礼』「夏小正」二月に、「往きて黍を耰(ゆう)す。襌(たん)なり。襌は単なり」と。
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日本には弥生時代に渡来。
明治時代まで広く栽培されていたが、今日ではほとんど見られない。 |
『万葉集』に、
なし(梨)棗(なつめ)きみ(黍)に粟(あは)嗣ぎ延(は)ふ田葛(くず)の
後もあはむと葵(あふひ)花咲く (16/2834,読人知らず)
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昔話「桃太郎」に出てくる黍団子が有名だが、今日岡山県の名物になっている「吉備団子」は嘉永・安政(1848-1859)以降に現れたもので、菓子としては白玉粉から作る求肥(ギュウヒ)であるという(本山荻舟『飲食事典』)。 |