内則 (だいそく)
 

作品名  『礼記』12「内則」
制作年代  漢
訳者名  竹内照夫 (ただし一部の植物名を改めた)
収載書名  『礼記』(『新釈漢文大系』28)
刊行年代  1977
 その他  周代の貴族の家庭の食物について述べる部分を抄出する。もちろん、伝説である。
飯は、黍(ショ,もち性のきび)・(ショク,あわあるいはうるち性のきび)・(タウ,いね)・(リャウ,上質のあわ)・白黍(ハクショ)・黄粱(クワウリャウ)の (ショ,熟した実を臼で搗いて食うこと)・{禾偏に焦}(サク,未熟の実を蒸して臼で搗いて食うこと)あり。
 
膳は、〔第1列は〕{肉月に郷}(キャウ,牛のあつもの)・{肉月に熏}(クン,羊のあつもの)・(ゲウ,豚のあつもの)・(カイ,塩辛)・牛炙(ギウシャ,炙は あぶり肉)、〔第2列は〕牛■{栽の木に肉を代入}(ギウシ,■は 切り肉)・牛膾(ギウクワイ,膾は 細切りなます・さしみ)、〔第3列は〕羊炙(ヤウシャ)・羊■{栽の木に肉を代入}(ヤウシ)・豕炙(シシャ,豕は ゐのこ、豚)、〔第4列は〕豕■{栽の木に肉を代入}(シシ)・芥醤(カイシャウ,からしあえ)・魚膾(ギョクワイ)、〔第5列は〕(チ,きじ)・(ト,うさぎ)・(ジュン,うずら)・(アン,ふなしうずら)。
 
飲は、重醴(チョウレイ,醴はひとよざけ。糟を漉した清醴と、漉さないままの糟醴があり、重醴とはその二種を備えること)は、稲醴(タウレイ,いねから作った醴)の清糟(セイサウ)、黍醴(ショレイ,きびから作った醴)の清糟、粱醴(リャウレイ,あわから作った醴)の清糟あり。或は(イ,)を以て醴と為す。黍酏(ショイ,きびから作った粥)なり。漿水(ショウスイ)・{酉偏に意}(イ)・(ラン)あり。酒は清白あり。
 
(シウ,ざるに載せて人にすすめるもの)は、糗餌(キウジ,ほしいい)・〔周禮天宮により粉餈(フンシ,きなこ)に改む〕なり。
○食(シ,主食の食い方)は、蝸醢(ラカイ,かたつむりの塩辛)ありて 苽食(コシ,まこもの実の飯)雉羹(チカウ,羹は あつもの)。麦食(バクシ,むぎめし)には 脯羹(ホカウ,脯は 肉の薄片の乾物)鶏羹(ケイカウ,鶏のあつもの)。折稌(セツト,こごめ(粉米)のめし)には 犬羹(ケンカウ)兔羹(トカウ)、和糝(クワサン,米の粉を溶いてあんかけにする)して蓼(レウ,たで)くはへず。豚を濡()るには 苦(ク,のげし)に包み蓼を実(みた)す。鶏を濡るには 醢醤(カイシャウ,ひしお)にて蓼を実す。魚を濡るには 卵醤(ランシャウ,魚卵のひしお)にて蓼を実す。鼈(ベツ,すっぽん)を濡るには 醢醤にて蓼を実す。■{肉月に段}(タンシウ,脯に香辛料をかけ、打って固めた物)には 蚳醢(チカイ,蚳は 蟻の幼虫)、脯羹には 兔醢、麋膚(ビフ,麋は おおじか・となかい。膚は 皮のすぐ下の肉)には 魚醢、魚膾には 芥醤(カイシャウ,からし)、麋腥(ビセイ,腥は 生肉)には 醢醤、桃諸(タウショ,ももの漬物)梅諸(バイショ,うめの漬物)には 卵塩(ランエン,塩の塊) 
○凡そ食斉(シセイ,斉は 温度の調整)は 春時に視(なぞら)(食物の温度は春の如く暖かくする)、羹斉は 夏時に視へ、醤斉(シャウセイ,醤は ひしお)は 秋時に視へ、飲斉は 冬時に視ふ。
凡そ和
(クワ,
味付け)は、春は 酸を多くし、夏は 苦を多くし、秋は 辛を多くし、冬は 鹹(カン,しおからい味)を多くす。調ふるに 滑甘(クワツカン,舌触りが滑らかで、甘い)を以てす。
牛は 稌
(ト,いね)に宜しく、羊は 黍(ショ,きび)に宜しく、豕 は稷(ショク,あわあるいはうるち性のきび)に宜しく、犬は 粱(リャウ,あわ)に宜しく、雁は 麦(バク,むぎ)に宜しく、魚は 苽(コ,まこも)に宜し。
春は 羔豚
(カウトン,
子羊と豚)に宜しく、膏薌(カウキャウ,牛のあぶら)を膳(ゼン)にす。夏は 腒鱐(キョシウ,雉の干肉と,魚の干物)に宜しく、膏臊(カウサウ,犬のあぶら)を膳にす。秋は 犢麛(トクベイ,子牛と小鹿)に宜しく、膏腥(カウセイ,鶏のあぶら)を膳にす。冬は 鮮羽(センウ,なまざかなと雉)に宜しく、膏羶(カウセン,羊のあぶら)を膳にす。
〔この條は、君主の日常の食物を列挙したものという。〕牛脩(ギウシウ,牛の干肉)・鹿脯、田豕の脯、麋脯・麕脯(キンホ,麕は くじか・きばのろ)あり。
麋・鹿・田豕・麕は皆軒
(ケン,
さしみ)有り。雉兔は皆芼(バウ,食用の草の名)有り。
(シャク,
すずめ)・鷃(アン,うずら)・蜩(テウ,せみ)・范(ハン,はちのこ)・芝(シ,きのこの一種)・栭(ジ,ちゅうごくぐり)・蔆(リョウ,ひし)椇(ク,ju,けんぽなし)・棗(サウ,なつめ)・栗(リツ,くり)・榛(シン,はしばみ)・柿(シ,かき)・瓜(カ,うり)・桃(タウ,もも)・李(リ,すもも)・梅(バイ,うめ)・杏(キャウ,あんず)・楂(サ,くさぼけ)・梨(リ,なし)・薑(キャウ,はじかみ・しょうが)・桂(ケイ,とんきんにっけい)
○大夫の燕食には、膾有れば脯無く、脯有れば膾無し。
士は羹{栽の木に肉を代入}
(カウシ)を貮(かさ)ねず。
庶人の耆老は 徒食せず。

○膾は、春は葱(ソウ,ねぎ)を用ひ、秋は芥(カイ,からし)を用ひ、豚は、春は韮(キウ,にら)を用ひ、秋は蓼(レウ,たで)を用ふ。
脂には葱
(ソウ,
ねぎ)を用ひ、膏には薤(カイ,らっきょう)を用ひ、三牲には■{草冠に毅}(キ,かわはじかみと訓む。ごしゅゆまたはさんしょう)を用ひ、和には醯(ケイ,)を用ひ、獣には梅(バイ,うめ)を用ふ。
鶉羹と鶏羹と鴽
(ジョ,
うずらの類)とは之に蓼(レウ,たで)を醸(かも)す。魴鱮(ハウショ,おしきうおと たなご)の蒸と雛の焼と雉とは、薌(キャウ,香草の一)ありて蓼無し。
〔調理に際して素材を処理することを〕肉には 之を脱すと曰(い)ひ、魚には 之を作(サク)すと曰ひ、棗(なつめ)には 之を新(シン)にすと曰ひ、栗(くり,チュウゴクグリ)には 之を撰すと曰ひ、桃(もも)には 之を膽(タン)すと曰ひ、(サ,くさぼけ)・梨(リ,なし)には 之を攢(サン)すと曰ふ。
○淳熬(ジュンガウ)〔という食い物〕は、凡そ(カイ,ひしお)を煎りて陸稲(リクトウ,おかぼ)の上に加へ、之に沃ぐに膏(あぶら)を以てするを淳熬と曰ふ。
淳母は、醢を煎()りて黍食(ショシ,きびの飯)の上に加へ、之に沃ぐに膏を以てするを淳母と曰ふ。
(ハウ)は 豚若しくは牂(サウ,牡羊)を取り、之を刲()き之を刳(えぐ)りて、棗(なつめ)を其の腹中に実()て、萑(クワン,おぎ)を編みて以て之を苴(つつ)み、之に塗るに謹塗(キント,粘土を塗ること)を以てして之を炮(あぶ)る。塗皆乾けば 之を擘
()く。手を濯ひて 以て之を摩()り、其の皽(セウ,うすかわ)を去る。稲粉を為り 之を糔溲(シウシウ,米粉に水をさし掻き混ぜてどろりとさせる)して 以て酏(イ,)と為し、以て豚に付けて諸(これ)を膏に煎る。膏は 必ず之を滅(おほ)ふ。鉅鑊(キョクワク,大きな釜)の湯、小鼎(セイテイ)薌脯(キャウホ,香料入りの干肉)を以て其の中にし、其の湯をして鼎(かなえ)に滅(あふる)る毋(な)からしめ、三日三夜火を絶つこと毋し。而して后に之を調ふるに醯(ケイカイ,すとしおから)を以てす。
○擣珍(タウチン)〔という食い物〕は、牛・羊・麋(ビ)・鹿・麕(キン)の肉を取る、必ず■{肉月に灰}(マイ,背の肉)にす。物毎に牛と一の若くす。捶(たた)きて之を反側し、其の餌(すぢ)を去り、孰(ジュク)して之を出し、其の(セウ,うすかわ)を去り、其の肉を柔にす。
(シ)は牛肉を取る、必ず新(あらた)に殺せる者をす。薄く之を切り、必ず其の理(すぢ)を絶ち、諸(これ)を美酒に湛(ひた)し、期朝(キテウ,一昼夜)にして之を食(くら)ふ。(カイ,しおから)若しくは醯■{酉偏に意}(ケイイ,うめ酢)を以(もち)ふ。
(ガウ)を為るには 之を捶きて其の(セウ,うすかわ)を去り、(クワン,おぎ)を編みて牛肉を布(し)く。桂(とんきんにっけい)と薑(しょうが)とを屑(セツ,みじん切り)にして 以て諸を上に灑(そそ)ぎ 之に塩し、乾かして之を食ふ。羊に施すも 亦之の如くす。麋に施し 鹿に施し 麕に施すも 皆牛羊の如くす。
濡肉を欲すれば、則ち釈
(ひた)して之を煎るに醢を以てす。乾肉を欲すれば、則ち捶きて之を食ふ。
○糝(サン)〔という食い物〕は、牛・羊・豕(シ,いのこ)の肉を取り、三(みつ)ながら一の如くし、之を小切し、稲米を与(くは)ふ。稲米二、肉一、合せて以て餌(ジ,だんご)に為りて之を煎る。
肝膋
(カンレウ)は 狗肝一を取り、之を幪(
おほ)ふに其の(レウ,腸の外側のあぶら)を以てし、之を濡炙(ジュセキ)し挙(みな)(こが)す。其の膋には蓼(たで)せず。稲米(いねのこめ)を取り、挙之を糔溲(シウシウ,米粉に水をさし掻き混ぜてどろりとさせる)し、狼の臅膏(ショククワウ,胸のあぶら)を小切し、以て稲米に与へて(イ,粥)を為る。



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