七月 
(しちがつ)
作品名  七月
収載書名 『詩経』「国風・豳風(ひんぷう)」 
訳者名  石川忠久著 (福本郁子訳)。但し一部改めた(*印)。
訳書名 『新釈漢文大系 111 詩経 中』
刊行年代  1998
 その他  豳(ひん。陝西省彬(ひん)県)の農事暦を歌う寿ぎ歌。
 白川静によれば、用いている暦は夏暦。その十月は周暦の十二月に当るので、その十一月・十二月を一の日・二の日といい、一月・二月を三の日・四の日という、と。(ただし異説あり)。
 中国古代の農事暦には、ほかに「夏小正」・「月令(がつりょう)」などがある。
七月流火
九月授衣
一之日觱発
二之日栗烈
無衣無褐
何以卒歳
三之日于耜
四之日挙趾
同我婦子
饁彼南畝
田畯至喜
七月は流るる火(なかご星。アンタレス Antares)
九月は衣を授く
一の日は觱発
(ひつはつ。風が強い)たり
二の日は栗烈
(りつれつ。寒さが厳しい)たり
衣無く 褐
(かつ。毛織のどてら)無くば
何を以て歳を卒
(お)へん
三の日は耜
(し。鍬)を于(をさ)
四の日は趾
(し。田を耕す道具)を挙(もち)
我が婦子と同
(とも)
彼の南畝に饁
(えふ。食事)すれば
田畯
(でんしゅん。田の神)至りて喜(き)

七月流火
九月授衣
春日載陽
有鳴倉庚
女執懿筐
遵彼微行
爰求柔桑
春日遅遅
采蘩祁祁
女心傷悲
殆及公子同帰

七月は流るる火
九月は衣を授く
春日 載
(すなは)ち陽(あたたか)
(ここ)に鳴く 倉庚(さうかう。コウライウグイス)
女は懿
(ふか)き筐(かご)を執り
彼の微行
(小道)に遵(そ)ひて
(ここ)に柔桑(クワの若葉)を求む
春日 遅遅たり
(はん。ハイイロヨモギ)を采(と)ること 祁祁(きき)たり
女心 傷悲す
(ねが)はくは公子と同(とも)に帰(ゆ)かん

七月流火
八月萑葦
蚕月條桑
取彼斧■
{爿偏に斤}
以伐遠揚
猗彼女桑
七月鳴鵙
八月載績
載玄載黄
我朱孔陽
為公子裳

七月は流るる火
八月はを萑
(か)
蚕月は條たる
彼の斧■
{爿偏に斤}(ふしゃう。斧)を取りて
以て遠揚を伐れば
(い)たる彼の女桑
七月は鳴く鵙
(げき。モズ)
八月は載ち績(せき)
載ち玄
(黒)にし 載ち黄にし
我が朱 孔
(はなは)だ陽(あき)らかなり
公子の裳を為らん

四月秀葽
五月鳴蜩
八月其穫
十月隕■
{草冠に擇}
一之日于貉
取彼狐狸
為公子裘
二之日其同
載纘武功
言私其豵
献豣于公

四月は秀
(しげ)れる葽(えう。イトヒメハギ)
五月は鳴く蜩
(てう、ひぐらし。セミ)
八月は其れ穫
(か)
十月は隕■
{草冠に擇}(いんたく)
一の日は于
(ここ)に貉(かく)
彼の狐狸
(こり。キツネとタヌキ)を取りて
公子の裘を為らん
二の日は其
(ここ)に同(あつ)まりて
載ち武功を纘
(つ)
(ここ)に其の豵(そう。1歳のイノシシ)を私とし
(けん。3歳のイノシシ)を公に献ぜん

五月斯螽動股
六月莎鶏振羽
七月在野
八月在宇
九月在戸
十月蟋蟀入我牀下
穹窒熏鼠
塞向墐戸
嗟我婦子
曰為改歳
入此室処

五月は斯
(ここ)に螽(しう。キリギリス)股を動かし
六月は莎鶏
(さけい。ハタオリ) 羽を振ふ
七月は野に在り
八月は宇に在り
九月は戸に在り
十月は蟋蟀
(しつしゅつ。キリギリスまたはコオロギ) 我が牀下に入る
窒を穹
(むな)しくして鼠を熏じ
(まど)を塞(おほ)ひ 戸を墐(つちぬ)
(ああ) 我が婦子よ
(ここ)に改歳を為さんとし
此の室に入りて処
(を)

六月食鬱及薁
七月亨葵及菽
八月剥棗
十月穫稲
為此春酒
以介繭眉
七月食瓜
八月断壺
九月叔苴
采荼薪樗
食我農夫

六月は鬱
(うつ。ニワウメ)と薁(*おう。エビヅル)とを食らひ
七月は葵
(き。フユアオイ)と菽(しゅく。マメ)とを亨(に)
八月は棗
(さう。ナツメ)を剥(う)
十月はを穫る
此の春酒を為り
以て眉壽を介
(いの)
七月はを食らひ
八月は壺
(こ。ヒサゴ)を断(き)
九月は苴
(しょ。アサの実)を叔(ひろ)
(と。ノゲシ)を采(と)り樗(ちょ。オウチあるいはニワウルシ)を薪にし
我が農夫を食
(やしな)

九月築場圃
十月納禾稼
黍稷重■
{禾偏に翏}
禾麻菽麦
嗟我農夫
我稼既同
上入執宮功
昼爾于茅
宵爾索綯
亟其乗屋
其始播百穀

九月は場を圃に築き
十月は禾稼
(かか。穀物)を納る
黍稷
(しょしょく。キビ類) 重■{禾偏に翏}(ちょうりく。おくてとわせ)
禾麻
(くわま。イネアサ) 菽麦(しゅくばく。マメムギ)
(ああ) 我が農夫よ
我が稼
(穀物) 既に同(あつ)まれり
上入して宮功を執
(な)
昼は爾
(すなは)ち茅(ぼう。チガヤ)を于(と)
宵は爾ち綯
(たう。縄)を索(な)
(すみ)やかに其れ屋を乗(おほ)
(まさ)に始めて百穀を播(ま)かんとす

二之日鑿氷沖沖
三之日納于凌陰
四之日其蚤
献羔祭韭
九月粛霜
十月滌場
朋酒斯饗
曰殺羔羊
躋彼公堂
稱彼兕觥
万寿無疆 

二の日は氷を鑿つこと沖沖たり
三の日は凌陰に入る
四の日は其に蚤
(と)るに
(かう。子羊)を献じて 韭(きう。ニラ)を祭る
九月は粛
(さむ)き霜
十月は場を滌
(きよ)
朋酒 斯
(ここ)に饗し
(ここ)に羔羊を殺す
彼の公堂に躋
(のぼ)りて
彼の兕觥
(じくわう。杯)を称(あ)
万寿
(ばんじゅ) 疆(かぎり)無けん

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