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『大百科事典』(1984,平凡社)によれば:
穀物 cereal とは、「イネ,コムギ,トウモロコシなど種実を収穫することを目的として栽培される一年草または二年草の作物,およびその種実の総称」。
「穀物のうち,主食とするものを主穀,その他のものを雑穀と呼ぶことがある」。
「また穀物はイネ科に属する禾穀(カコク)類を主体とするが、そのほかにマメ科の菽穀(シュクコク)類などが含められる」。
「禾穀類には,イネ,コムギ,オオムギ,ライムギ,エンバク,トウモロコシ,モロコシ,アワ,ヒエ,キビなど,菽穀類にはダイズ,アズキ,リョクトウ,インゲンマメ,ラッカセイ,エンドウなどがある。また,それ以外の穀物には,タデ科のソバ,アカザ科のキノア,ヒユ科のセンニンコクなどがある」。
ただし:
1. 主食とするか否かという主穀と雑穀の区分事由は、所謂先進国の食習慣に基づくものであろう、
世界には「げんざい雑穀を主食としている国や民族の人口の合計は数億人以上」ある(中尾佐助)そうだ。
下欄「雑穀」を見よ。
2. キノア(キヌア) Chenopodium quinoa は、今日の分類ではヒユ科アカザ属に属す。
3. 上にいう「それ以外の穀物」を、擬穀(擬似穀物)と呼ぶことがある。
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主穀とは、主食として用いられる穀物を謂い、イネ・コムギ・トウモロコシが含まれる。
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雑穀とは、『日本国語大辞典 第二版』によれば、「穀類のうち米や麦を除いたアワ、ヒエ、キビなどの総称」といい、早くは『続日本紀』に用いられている言葉という。『世界大百科事典』(平凡社)によれば、雑穀は「アワ,キビ,ヒエなどの総称で,英語のミレット
millet に対応する語」という。『研究社 新英和大辞典』(第6版,2002)によれば、millet は 1a. キビ、1b. キビに類するイネ科の植物の総称、2.
キビ・アワ・ヒエなどの穀粒。『新スタンダード仏和辞典』(第7版,2000)によれば、millet は 1. 黍;黍に類似の雑穀類。『岩波 独和辞典』(1953)によれば、Hirse
は ①きび(黍)、②もろこし(蜀黍)。
中尾佐助によれば、「雑穀という言葉は、英語ではミレット、ドイツ語ではヒルゼにあたる日本語である。ヨーロッパは新石器時代から穀作農耕の段階に入り、ムギ類と家畜による農業をやってきた。そこでは雑穀は異端者として取り扱われ、いやしめられてきた。ミレットもヒルゼも、もともとはキビのことであったが、ヨーロッパではそれが雑穀の代表とされ、新しい雑穀もみなその名で総括されてきた。英語では、アワはイタリアン・ミレット、ヒエはシャパニーズ・バーンヤード・ミレットと俗称される」(「栽培植物の世界」)。
なお、諸書を通じて、雑穀は禾穀の内のものを謂うのが原則で、菽穀・擬穀を含む場合は「広義の雑穀」などと注記することが多いようだ。 |
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漢土には、穀物を通称する言葉として「五穀」「百穀」などがある。
五穀の内容については、古くは『周禮』の鄭玄注に「麻・黍・稷・麥・豆」とあるが、時代や地域や著者により所説は一定しない。おおむね、イネ・キビ・アワ・タカキビ(コーリャン)・ムギ・豆(菽。ダイズまたはアズキ)・麻(アサの実またはゴマ)の何れかの組み合わせが多い。
詳しくは「五穀」の項を見よ。
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漢語の榖(コク,gŭ)字は、今日の中華人民共和国では簡体字として谷(コク,gŭ)を用いる。北京語による音通に基づく。
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白川静『字統』によれば、漢語の榖(コク,gŭ)は、穀物の穂を撃って脱穀をしている形。
{士/冖/一}は穀物の実のある部分、そこに実のある形は穆(mù,ボク 禾が実って穂を垂れ、実がはじけようとする形)、これを撃つ形は榖、脱穀してすでに実の無い形は殼(ké,カク)。
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和語では、古くは穀を「たなつもの」と訓んだ。「たなつもの」は「はたつもの」の対語、「たな」は「たね(種)」の古形という。 具体的には、「たなつもの」は稲。
『言海』に「たなつもの 榖〔種之(タナツ)物ノ轉ト云、田成之(タナリツ)ものノ略〕田ニ成ルモノ、卽チ稻。「乃以二粟稗麥豆一爲二陸田種子(ハタツモノ)一 以レ稻爲二水田種子(タナツモノ)一」 又、田畠ノ物ニ通ジテ五榖ヲ統ベテモイフ」と。
『大言海』「たなつもの 種子〔種之物(タナツモノ)ノ義〕種(タネ)ニ同ジ。上古ハ專ラ稻ノ種ヲ云フ。畑ニ植ウル粟、稗、麥、豆ノ類ノ種ヲはたつもの、はたけつものト云フ。・・・又、田畠ノ物ニ通ジテ、五榖ヲ統ベテモ云フ」と。 |
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「穀類はみな一年生植物だ。雑穀も栽培化されたものは例外なしに一年生の性質をもっている。イネやアワ、キビ、ソルガムなどでは近縁で野生していて、穂を食用に採集されるものに多年性があるのに、一年生だけが栽培植物になった」(中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」)。
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中尾佐助は、Sauer(1956)による雑穀の説明を引用する。「ミレットという語は、植物学的には無意味な言葉であるが、経済的にはまったく正当な用語である。種実を人間の食糧とするために栽培して、小さい粒をたくさんつける禾本科の植物は、どれでもミレットという。ミレットは、個々の粒の大きさのためでなく、一本の植物が多数の粒をつけるために魅力的なのである。人為淘汰は個々の粒の大きさを大きくすることをほとんど考えず、むしろ粒をつける穂の大きさをさらに大きくすることに向けられた」と(「農業起原論」)。
「では、雑穀とはどんなものだろう。アワやキビは古代シナ文化をきずきあげた基本的穀類であることはよく知られたことである。・・・げんざい雑穀を主食としている国や民族の人口の合計は数億人以上もあって・・・ 雑穀という穀類の通有性を見ると、そのすべてが夏作物であることが第一の特色である。・・・雑穀としての雑穀の特色の一つは、穀粒の大きさが小さいことであって、そのため雑穀はときとして小穀類などと呼ばれることもある。・・・」(「栽培植物と農耕の起源」)。
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「一定の穀物と文化との結びつきは深い。・・・多くの場合は長い歴史によって作り上げられ,文化の隅々にまで行き渡った深い関係がある。古代の文明はそれぞれの地域に合った穀物を選び出し発達させ,その基盤の上に多くの文化を生み出した」(『大百科事典』)。
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根菜農耕文化:
「東南アジアの熱帯降雨林の中で人類の最古の農業が成立したとの説は、たびたびくりかえされてきた」(中尾佐助「農業起原論」)。そこでは非常に古くバナナとサトウキビが栽培化され、またタロイモ・ヤムイモが栽培化された。
このバナナ・ヤムイモ・タロイモ・サトウキビを組み合わせた農業体系(東南アジア熱帯降雨林農耕コンプレックス)をする文化を、根菜農耕文化と呼ぶ。ここにははじめ穀物はなかったが、根菜農耕文化の最後の頃にハトムギを栽培化した(中尾佐助前掲書,及び「栽培植物と農耕の起源」)。
なお、この文化では栽培植物は栄養繁殖によってのみ増殖され、種子繁殖を用いない。また耕地としては、焼畑をおこなった(「栽培植物と農耕の起源」)。 |
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照葉樹林文化:
「東南アジアの熱帯降雨林地帯の北方、主に大陸のインドシナ半島の脊柱の山脈の上から、北方にむかって、温帯性の森林地帯がある。この温帯林は常緑性のカシ類を主力として森林で、・・・東アジア独特のもので照葉樹林(Lucidophyllus
forest)と呼ばれ、東アジアでは熱帯降雨林につづく大きな生態的環境である。この照葉樹林はさらに高地、あるいは北方では針葉樹林に接し(ヒマラヤ地域)、サバンナ地帯に接し(シナの原始景観)、落葉樹林に接する(朝鮮、日本)。
東南アジアの熱帯降雨林の中でおこった根裁農耕文化は北方に伝播し、温帯林である照葉樹林帯に到達すると、環境の変化に応じておのずから農耕文化基本複合の変化をおこしてくる。・・・こうして発達してきたのが照葉樹林文化複合である。・・・日本の農耕文化は直接的に照葉樹林文化の一端となるものである。」(「栽培植物と農耕の起源」) |
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サバンナ農耕文化:
アフリカとインドに複数のセンターを持つサバンナ農耕文化では、「雑穀という穀類を人類の食糧とし、それを栽培化することに成功」、その上に「マメ類の栽培が加わり、果菜類が副食として開発され」、「最後に油料種子を栽培して、植物油を食糧に加えるようになると、サバンナ農耕文化は農業のみで、ほとんど完全に人類の栄養を補給することができる」ようになった(「栽培植物と農耕の起源」)。
ニゼル川センター:B.C.5000-B.C,4000頃。フォニオ・トウジンビエ・ソルガムを栽培化。
エチオピアセンター:B.C.4000-B.C.3000頃。テフ(カゼクサ属)・シコクビエを栽培化。
南インドセンター(デカン高原西部):キビを栽培化。
北インドセンター(五河地方):アワを栽培化。
照葉樹林文化センター:ヒエを栽培化。
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地中海農耕文化:
『大百科事典』に、地中海式気候 Mediterranean climate について、「温帯気候(C)の一つで,温帯夏乾燥気候,温帯冬雨気候ともいう。地中海周辺部ではとくに冬季に強く吹く偏西風と湾流(暖流)の影響下にあり,温暖なため,気温の年較差が小さい。偏西風は同時に大気中の水分も運んでくるので冬雨型を示し,夏の乾燥は中緯度高圧帯による。年間の降水量は温帯で最も少なく400~600mmである」と。
地中海気候地帯では「野生の禾本科植物が大部分一年生である」。ここでは一年生作物として、冬作物であるムギ類と、やはり冬作物であるエンドウとソラマメを栽培化した。(「栽培植物と農耕の起源」)。 |
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日本では、『古事記』上に、須佐之男命(すさのおのみこと)に殺された大気津比売(おおげつひめ)の体から五穀が生じたという。すなわち「故(かれ)、殺さえし神の身に生(な)れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰(ほと)に麦生り、尻に大豆生りき」と。
『日本書紀』神代第5段一書第11に、保食神(うけもちのかみ)に関わる同様の説話が載る。すなわち「天照大神喜びて曰はく、「是の物は、顕見(うつし)しき蒼生(あをひとくさ)の、食(くら)ひて活くべきものなり」とのたまひて、乃ち粟稗麦豆を以ては、陸田種子(はたけつもの)とす。稲を以ては水田種子(たなつもの)とす」と。
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インドでは、『入楞伽経』食肉品に、修行者が食うのにふさわしい食物として「米・大麦・小麦・緑豆・豆・小豆・酪・胡麻油・蜜・粗糖・黒糖・蜜糖・糖汁」の13をあげ、食うべからざるものとして「肉・葱(ネギ)・酒・韮(ニラ)・蒜(ニンニク)」の5をあげる。
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